犬の炎症性腸疾患における炎症性サイトカイン発現解析に関する研究

書誌事項

タイトル
犬の炎症性腸疾患における炎症性サイトカイン発現解析に関する研究
タイトル別名
  • Study on the pro-inflammatory cytokine expression profile in dogs with inflammatory bowel disease
著者
田村, 悠
学位授与大学
北海道大学
取得学位
博士(獣医学)
学位授与番号
甲第11280号
学位授与年月日
2014-03-25

説明

犬の炎症性腸疾患(IBD)は慢性の消化器症状を示す原因不明で難治性の疾患群である。小腸性に起こるリンパ球形質細胞性腸炎(LPE)と大腸性に起こるリンパ球形質細胞性結腸炎(LPC)が最も一般的な病型である。LPEとLPCの診断は、除外診断により他の疾患を除外し、病変部の病理組織検査によりリンパ球と形質細胞の浸潤が粘膜に認められたものとされる。一方で、炎症性結直腸ポリープ(ICRPs)は近年国内のミニチュア・ダックスフンドで主に認識されてきている結直腸の炎症性疾患である。内視鏡像では多発性の小ポリープと内腔を占拠するような孤立性の大ポリープとに分けられ、病理組織学的には多数の好中球とマクロファージの浸潤が認められる。病因は不明であるが、免疫抑制療法には反応を示すことから、犬のIBDの新たな病型ではないかと考えられてきている。犬のIBDの病因に関して、管腔内に存在する常在細菌叢などの刺激に対する粘膜免疫の破綻が重要な役割を担っていると考えられている。人のIBDであるクローン病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)の病態生理には、腸管の免疫抑制の破綻が中心的な役割を担っている。CDとUCの両疾患において、炎症部位における炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-α、IL-8、IL-12p35、IL-12/23p40 及びIL-23p19)は健常者に比べて有意に増加しており、病態形成に重要な役割を担っている。一方で、犬においてはLPE とLPC では炎症性サイトカインの発現解析を行った報告はあるものの、その数は少なく、一貫した見解は得られていない。また、ICRPsに関しては今までに炎症性サイトカインの発現解析を行った報告はない。そこで本研究の目的は、犬のLPE、LPC及びICRPsにおける炎症性サイトカインの発現を解析することである。第1章では、定量リアルタイムPCR法を用いてLPEとLPCの腸管粘膜における炎症性サイトカインの遺伝子発現解析を行った。その結果、LPEではTNF-α、IL-12p35、IL-12/23p40及びIL-23p19遺伝子発現量が健常犬に比べて有意に減少しており、LPCではIL-23p19遺伝子発現量のみが健常犬に比べて有意に上昇していた。これらのことより、炎症性サイトカインの発現量はLPEとLPCの病態形成に深く関与していない可能性が示唆された。第2章では、定量リアルタイムPCR法を用いてICRPsの小ポリープと大ポリープ病変部における炎症性サイトカインの遺伝子発現解析を行った。その結果、大ポリープでは測定した全ての炎症性サイトカイン遺伝子発現量が健常犬に比べて有意に上昇しており、小ポリープではIL-1β、IL-6、IL-8及びIL-12p35遺伝子発現量が健常犬に比べて有意に上昇していた。中でも、IL-8遺伝子発現量が顕著に上昇していたため、ELISA法を用いてIL-8蛋白質量を定量した。IL-8蛋白質はICPRsの血中と病変部の両方において健常犬と比べて有意に上昇していることが明らかになった。そこで、IL-8産生細胞を特定するために免疫組織化学染色を行ったところ、IL-8陽性細胞はマクロファージに特異的なマーカーであるIba1陽性細胞と共染色されることが明らかとなり、その陽性細胞数は健常結腸組織、小ポリープ、大ポリープの順に増加していることが示された。これらのことより、ICRPsの病態形成にはマクロファージから産生されるIL-8が重要である可能性が考えられた。本研究により、犬のLPE及びLPCとICRPsでは病変部における炎症性サイトカインの発現動態が異なることが明らかとなった。LPEとLPCでは、病変部における炎症性サイトカインの発現上昇はほぼ認められず、人のIBDとは病態が異なる可能性が示唆された。一方、ICRPsでは病変部における炎症性サイトカインの発現量は上昇しており、特に顕著に上昇していたIL-8はマクロファージから産生されている可能性が示唆され、ICRPsの病態形成に深く関わっていることが考えられた。

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