セボフルレンの頭蓋内圧および脳脊髄液産生, 吸収に及ぼす影響

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抄録

1990年より臨床導入された揮発性吸入麻酔薬であるセボフルレンの頭蓋内圧(ICP)環境に関する報告は少なく, とくに, 内圧環境を決定する大きな因子である脳脊髄液(CSF)に対する研究はみられない. そこで本研究は, セボフルレン麻酔時のICP環境に及ぼす影響を, CSFの産生, 吸収動態より検討した. 実験動物は成熟ネコ42匹を用い, ペントバルビタール・笑気・酸素麻酔下で脳定位固定装置に固定後, 以下の3実験を行った. 1. 脳室圧, 脳静脈洞圧の測定(n=9) ネコにおけるセボフルレン1 MAC麻酔(2.6%)下の180分間にわたるICP環境の変化について, 側脳室圧(LVP), 上矢状静脈洞圧(SSSP)をおもな指標として検討した. 2. CSF産生量(Vf)の変動測定(n=10) Pappenheimerらの脳室-大槽灌流法を用いて, 180分間にわたりVfを経時的に測定し, セボフルレン1 MAC麻酔による影響を検討した. 対照として, エンフルレン1 MAC麻酔(2.4%)下でのVfの変動を観察して比較した. 大槽カテーテルのopen endの高さを調節し, LVPを灌流前と同一になるように設定して, トレーサ(blue dextran)添加の人工髄液で脳室-大槽間を150分灌流した. その後, 大槽から採取したCSFのトレーサ濃度(Co)を測定し, 次式を用いてVfを算出した. Vf=Vi・(Ci-Co)/Co(ml/min) (Vi:注入量, Ci:注入液トレーサ濃度) この値を対照値とし, 以後180分間の両群のVfの変動の差を検討した. 3. ICP負荷によるVf, CSFの吸収量(Va)の変化に対するセボフルレンの影響(n=23) セボフルレン1 MAC麻酔下で, 人為的にICPを負荷した場合のVfとVaの変化, ならびにCSF吸収抵抗(Ra)を求めた. 対照として, 笑気麻酔およびエンフルレン1 MAC麻酔下での変化も同様に観察し, 比較検討した. 実験2と同様に150分間灌流を行ったのち, 大槽から採取したCSFのCoおよび流出量(Vo)を測定し, 実験2の式ならびに次式を用いて, Vf, Vaを求めた. va=(vi・ci-vo・co)/co(ml/min) 次に, 大槽カテーテルのopen endを上昇させてLVPを10cm H_2O負荷させ, 同様にVf, Vaを求めて, 3群間の差異を比較した. さらに, 10cm H_2O圧負荷による各群のVa変化から, 次式を用いてRaを算出した. Ra=ΔP/ΔVa (cm H_2O/ml/min) (ΔP:負荷したLVP, ΔVa:圧負荷によるVa変化量) その結果, 実験1ではLVPほ吸入直後と120分後の2段階的な上昇を示したが, SSSPは変化を認めなかった. 実験2では, セボフルレン吸入によりVfほ経時的に減少し, Vfの増加傾向を示したエンフルレンの反応とは異なった. また, 実験3において, VfはICP負荷により3群とも有意な減少を示した. 一方, セボフルレン麻酔下のICP負荷時のVa増加量は, 笑気麻酔群のそれと比較して減少し, Raの増加が認められた. 一般に, CSFの産生は頭蓋内代謝の変動に影響されると考えられており, セボフルレンが脳代謝を抑制していることが本実験の結果より推察された. また, CSFの吸収抵抗の増加がセボフルレンにより引き起こされ, その結果, 頭蓋内CSF総量が増加し, セボフルレン吸入後期のICP上昇に関与していることが示唆されたが, その程度はエンフルレンよりは小さく, 頭蓋腔の内圧環境に与える影響も少ないと考えられた.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 56 (2), g51-g52, 1993

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204209101056
  • NII論文ID
    110001724541
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.56.2_g51
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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