咬頭嵌合位での咬筋, 側頭筋筋活動の非対称性指数と活動性指数の正常範囲設定に関する研究

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抄録

閉口筋筋活動の不協調は顎機能異常の誘因の一つであり, その客観的診査法として筋電図分析法が広く用いられてきた. 接触歯の数, 早期接触の有無, さらには顎顔面形態が, 咬頭嵌合位での筋活動に影響するといわれる. ところが, 健常者であれば, 左右同名筋の活動がまったく一致した大きさで, またすべての閉口筋が同じ活動度というわけではない. そこにはある範囲, すなわち正常範囲が存在するはずである. 今回, 咬頭嵌合位での最大随意咬みしめ時の 10%, 50% の収縮強さにおける咬筋ならびに側頭筋前部の筋電位から, それぞれの筋活動の左右的バランスを示す非対称性指数, ならびに咬筋と側頭筋の相対的活動度を示す活動性指数を求め, それらの正常範囲を設定することを試みた. 被験者には, 1) 自覚的にも他覚的にも顎機能異常がなく, 2) 歯科矯正の既往がなく, 3) 第三大臼歯以外の欠損歯もなく, 4) いかなる歯科治療も最近3か月以内に受診していない, 5) 20歳代, 6) 異常習癖をもたない, さらに 7) 心身医学的な問題がない, いわゆる健常者を選択した. ジーシー社製マッスルバランスモニター (BM-II,以下MBM) を用いて, 被験者を自然な頭位で座位にて, 両側の咬筋中央部および側頭筋前部それぞれから双極性に筋電位を導出した. 筋の位置を触診によって確認したのち, 咬みしめ時に膨隆が最大となる部位をアルコール綿でよく清拭し, 付属の表面電極2つを筋走行に沿って20mmの間隔で貼付し, さらに電極をテープで固定した. 咬合を誘導させる際, ヘッドレストを使用せず自然な頭位で, 上体が床面と垂直になる座位にて, 下顎安静位から咬頭嵌合位に移行させた. 咬頭嵌合位における最大随意咬みしめ (maximum voluntary contraction, 以下MVC) 時の筋電位の大きさを100%として, 記録時の咬みしめ強度を 10% MVC と 50% MVC に, MBM のバーグラフをビジュアルフィードバックして規定した. なお, 最大随意咬みしめを3回行って最も大きい筋電位を 100% MVC とした. 2段階の筋収縮強度それぞれでの, 3秒間の筋電位積分量から各指数を求めた. 男性88名, 女性75名 (平均22.7歳) から非対称性指数の正常範囲を, 男性47名, 女性39名 (平均22.5歳) の両側から活動性指数の正常範囲を求めた. 正常範囲設定に先立ち, まず独立2群間について Mann-Whitney 検定にて有意な差の有無について判定した. ついで Smirnov の棄却検定を用いてデータ群での飛び離れ値を棄却し, 歪度, 尖度の検定から正規分布を確認した. すべて有意水準を5%とした. 正規分布とみなされたデータ群の平均値±2×標準偏差の範囲を正常範囲とした. 非対称性指数 (正値は右側に偏っていることを示す) において, 男女間に有意差を認めた. 男性におけるその正常範囲は, 咬筋での 10%MVCでは-51.57〜64.69, 50%MVCでは-39.19〜34.07, 側頭筋での10%MVCでは-56.42〜71.51, 50%MVCでは-32.99〜29.65となった. 女性におけるその正常範囲は, 咬筋での10%MVCでは-35.79〜58.83, 50%MVCでは-27.82〜29.71, 側頭筋での10%MVCでは-30.90〜51.97, 50%MVCでは-20.12〜26.01となった. 活動性指数 (負値は側頭筋優勢を示す.) において, 左右間に有意な差を認めなかった. 男性におけるその正常範囲は, 10%MVCでは-94.22〜35.85, 50%MVCでは-38.84〜44.13となった. 女性におけるその正常範囲は, 10%MVCでは-81.98〜6.19, 50%MVCでは-49.49〜27.36となった. 以上, 咬頭嵌合位での咬筋ならびに側頭筋前部の筋電位から求めた非対称性指数の正常範囲を, パラメトリックな統計方法によって設定した.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 57 (3), g85-g86, 1994

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204209539712
  • NII論文ID
    110001723650
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.57.3_g85
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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