エナメル質におけるフッ素保持に関する研究 : とくに, フッ化ナトリウム溶液の通電下での作用について (大阪歯科大学大学院歯学研究科博士論文内容要旨および論文審査結果要旨)

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抄録

フッ化物局所応用法の効果をより高めるためには, 作用後のエナメル質へ短時間に多量のフッ素を安定な型で取り込ませることである. 一方, イオン導入を用いたフッ化物歯面塗布法は, 広く応用されているにもかかわらず, 通法の塗布法に比較して有効であるかどうかについての基礎的データが乏しく, 効果に対して一定の見解が示されないままに行われている. そこで著者は, フッ素イオン導入法の原理を応用してエナメル質にフッ素を作用させることが, エナメル質に安定な型のフッ素を供給する方法として有効であるかを検討した. すなわち, in vitroにおいてリークを起こさないように通電下でエナメル質にフッ化物溶液を作用し, エナメル質へのフッ素の取り込みおよびフッ素の保持について検索した. 実験にはウシエナメル質を用い, 作用溶液としてpH5.0に調整した2%NaF溶液を用いた. 作用方法は可変式直流安定化電源装置の両端子間にエナメル質とフッ化物溶液を置き, 電流量を50μA, 100μAおよび200μAにそれぞれ変化させて行った. また, 作用時間を2分間, 4分間および4分間3日連日作用で行った. 作用後10分間水洗し, 人工唾液中に30分間, 24時間および1週間保存した. さらに作用後のエナメル質を1M KOH溶液中で24時間洗浄した. エナメル質表層フッ素の取り込みは, 0.5M HClO_4溶液を用いた4回連続脱灰により層別に分析を行った. 一定深さでのフッ素量を算定するために, 測定したフッ素量とエナメル質表層からの深さの関係から回帰式を表わし, 表層からの深さ5μmおよび10μmでの推定フッ素濃度を算定した. 以上の実験条件により, 次の結果を得た. 1) エナメル質表層フッ素濃度の経時的変化は作用時間および通電条件にかかわりなく作用直後が高く作用後24時間にかけて急激に減少し, 以後1週間までゆるやかに減少するか, またはほとんど変化せずに推移した. 2) エナメル質表層5μmおよび10μmのフッ素濃度は, 作用後の各時期で通電せずに作用した場合に比べ, 通電下で作用した場合に明らかに高くなり, また電流量が増加するほどフッ素濃度が高くなることが認められた. このことから, 通電下で作用することがエナメル質へのフッ素の取り込み量の増大, エナメル質深部へのフッ素の浸透およびフッ素の保持に効果的であることが明らかになった. 3) 通電下で2分間作用した場合のエナメル質表層フッ素濃度は, 通電せずに4分間作用した場合に比べ, 作用後の各時期で高くなることが認められた. このことから, 作用時間を短縮しても作用時に通電することにより, 同等あるいはそれ以上のフッ素取り込み量および保持量が得られることが示唆された. 4) エナメル質表層のKOH不溶性フッ素濃度は, 洗浄前に比べ約1/3程度に減少したが, 通電下で作用した場合には, 通電せずに作用した場合に比べ明らかに高く, また電流量の増加および作用時間を延長することにより高くなることが認められた. このことから, 通電下で作用した場合には安定な型でのフッ素の取り込みが増大することが示唆された. 以上のことから, NaF溶液をエナメル質に作用する場合には, 通電下で実施することがエナメル質表層へのフッ素の取り込みおよび保持に影響を与える因子であることが明確となった.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 53 (2), g85-g86, 1990

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204209872896
  • NII論文ID
    110001723355
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.53.2_g85
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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