ライオンの顔面動脈 (大阪歯科大学大学院歯学研究科博士論文内容要旨および論文審査結果要旨)
書誌事項
- タイトル別名
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- The Facial Artery of the Lion (Panthera leo)
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説明
ネコ科の動物の形態系の報告は, ほとんどが家ネコ (Felis domestica) に関するもので, 巨大なネコ科の動物 (Panthera) の報告はきわめて少ない. 脈管系とくに動脈系の報告は, Tandler (1899) のトラとヒョウのものがみられるが, ライオン (Panthera s. Felis leo) の動脈系を主体とした報告はほとんどみあたらない. 実験動物として多用するイヌやネコの顔面に分布する動脈については, 総括的記載から, 近年, イヌ, カイウサギ, ヤギ, ネコ, ラットについては詳細な報告をみ, 顔面に分布する諸動脈の発達の程度は, ヒトを含めて種差が大きいことが知られてきた. 著者は, ライオンの顔面動脈の起始, 分枝および分布状況を詳細に観察し, その所見を食肉目のものと比較解剖学的考察を試みた. 大阪歯科大学解剖学講座保存のライオン3頭, 両側総頚動脈からアクリル樹脂を注入した頭頚部動脈系の鋳型標本 (5側) ならびに剖検標本 (1側) を用いた. 顔面動脈は外頚動脈が鼓室胞の前で外側方へ曲がるとき, 茎突舌筋と顎二腹筋との間で, 5側では舌動脈の起始と後耳介動脈の起始の間, 1側では後耳介動脈の起始の高さで外頚動脈の前下壁から前方へ単独で起始していた. 顔面動脈本幹は起始後直ちに下顎腺枝を派出したのち, 咬筋停止部内側を顎二腹筋の上縁に沿って前走し咬筋枝を上方へ派出していた. 咬筋枝は太く, 多数の枝を咬筋に送りながら前走し咬筋前縁にまで達していた. ついで顔面動脈は前下方へ向きを変え, 舌下腺枝を派出したのち顎舌骨筋後縁に達し, ここで下壁からオトガイ下動脈を前下方へ派出していた. オトガイ下動脈は下顎骨下縁に沿って前走し, 途中, 顎二腹筋枝と顎舌骨筋枝を派出し, 下顎間正中軟骨結合の後下端に達し, 反対側のオトガイ下動脈と吻合していた. オトガイ下動脈派出後の顔面動脈本幹は, 下顎骨の顔面血管切痕をまわって顔面に出て, 頬筋と咬筋に分布する頬枝, 臼歯腺ならびにその周辺の皮膚に分布する下顎縁枝を派出したのち, 咬筋前縁に沿って前上方に走り, 咬筋下部からオトガイ下部の皮下に分布する皮枝を派出していた. 1側では下顎縁枝はよく発達していて, 下唇下方を前走したのち中オトガイ動脈と吻合していた. ついで顔面動脈は口角の後方で, 下唇動脈の2終枝に分岐していた. 下唇動脈は発達がよく, 臼歯腺に多数の小枝を送り, 臼歯腺の上縁, ついで口角下方から下唇中を前走し, 下唇の皮膚ならびに口輪筋に分布したのち, 正中で反対側のものと吻合し下唇動脈網を形成していた. 後上唇動脈は顔面動脈の走行方向の続きで, 口角枝や眼窩下内側縁周辺の皮膚に分布する上方への枝を派出したのち, 上唇後方で前方へ向きを変えていた. 1側の後上唇動脈は太く, 眼窩下動脈からの枝と吻合したのちそのまま前上唇動脈となって, 正中に達したのち上方へ向きを転じ, 両外鼻孔の間を上行する鼻中隔枝となって終わっていた. ライオンの顔面動脈は, その起始と分枝が家ネコのものときわめて類似していた. 相違点は, 下唇動脈が正中で反対側のものと吻合することと, 舌下部ならびに前歯部舌側粘膜へは, オトガイ下動脈からの枝が分布するcarnivora typeではなく, 舌動脈からの枝が分布するhuman typeであったことである.
収録刊行物
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- 歯科医学
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歯科医学 53 (3), g97-g98, 1990
大阪歯科学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001204209888896
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- NII論文ID
- 110001723373
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- ISSN
- 2189647X
- 00306150
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可