歯みがき時の手や腕の筋活動および口腔感覚による歯みがき動作の調節作用について

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タイトル別名
  • Muscle Activities in the Hand and Arm during Tooth Brushing and the Regulation of Brushing Movements by Oral Sensory Perception

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抄録

歯みがき動作の調節には, 手や腕の筋活動および口腔感覚が関与している. そこで, 慣行刷掃法 (被検者各自が日常慣行している刷掃法), スクラッビング法およびローリング法による刷掃時の歯みがき圧および歯みがき動作のパターンならびに手や腕の筋活動を, それぞれ歯ブラシ頚部に貼付した三軸ストレインゲージから得られるひずみの大きさ, 方向および波形ならびに筋電図によって観察した. そして, 歯みがき圧, 歯みがき動作のパターンおよび手や腕の筋電図が口腔感覚の遮断 (レジンプレートで歯および歯肉を覆う) によってどのような影響を受けるか, また歯みがき圧とエステジオメーターによって測定した歯根膜および歯肉の触覚閾値との間にどのような関係があるかについて検討した. さらに, スクラッビング法における歯みがき動作は, 書字動作に似ているので, 単軸ストレインゲージを貼付したボールペンによる執筆時のペン軸のひずみ量または圧力測定フィルムの色濃度から求めた筆圧と歯みがき圧との関係についても調べた. 得られた結果および結論は, 次のとおりである. ローリング法では, 感覚を遮断すると筋活動および歯みがき動作のパターンのリズム性はなくなり, また歯根膜の触覚閾値の小さい被検者に限ってその歯みがき圧は非遮断時に比べて大きくなる. しかし, スクラッビング法では, 感覚遮断による以上の影響は認められなかった. スクラッビング法においては, 感覚遮断の有無とは関係なく, 筆圧の大きい被検者群では歯みがき圧も大きく, 筆圧が中等度の被検者群では歯みがき圧も中等度であり, 筆圧の小さい被検者群では歯みがき圧も小さかった. しかし, ローリング法においてはこの関係はみられない. 以上, 歯みがき圧はローリング法においては筋活動因子よりも口腔感覚因子によって, これに対してスクラッビング法では口腔感覚因子よりも筋活動因子の影響を受けることを明らかにした. なお, 慣行刷掃法では, ローリング法やスクラッビング法においてみられた法則性は認められなかった. また, ローリング法およびスクラッビング法ではその熟練度が増すと, 歯みがき圧は至適の大きさ (ローリング法 : 600〜800g, スクラッビング法 : 300〜400g) となり, 歯みがき動作のリズムも規則正しくなる. 刷掃時に活動する手や腕の筋の種類はスクラッビング法とローリング法とによって, またその筋活動の様相は刷掃法の熟練度によって著しい差異がみられる. すなわち, スクラッビング法では短母指屈筋および橈側手根屈筋の, ローリング法では円回内筋, 上腕二頭筋および三角筋の活動がともに著明である. 熟練者では, スクラッビング法においては手掌および前腕の筋の活動が, ローリング法においては上腕および肩の筋の活動が主体であり, 筋活動のリズムも規則正しかった. これに対して, 未経験者では, 熟練者においてみられた歯みがき動作の熟達を示す現象は全く認められない. ローリング法においては, 歯みがき圧や歯みがき動作のパターンでは正しい術式を行っていると判定できる被検者であっても, 筋活動のリズムは不規則である場合があった. 以上の結果ならびに刷掃時に活動する筋の種類および筋活動と歯みがき動作の熟練度との関係から, ブラッシング指導を完全に行うためには, 歯垢除去効果率や歯みがき圧の測定あるいは歯みがき動作の巧拙の判定による従来の方法だけでは不十分であり, 歯みがき動作に関与する手や腕の筋の活動状態も考慮する必要がある.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 53 (4), g19-g20, 1990

    大阪歯科学会

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