細胞内毒素の肉芽組織透過性からみた根尖病変の成立に関する実験的研究 : 皮下空気嚢の炎症性反応と透過性との関係

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抄録

根尖性歯周組織炎の発現には細菌性因子が強く関与しており, 根管内から偏性嫌気性菌を主とするグラム陰性菌が高頻度に検出されている. 細菌内毒素(Et)はグラム陰性桿菌の細胞壁成分であり, その組織障害作用は根尖部組織の破壊の一因となっている. 細菌内毒素は広範囲な生体反応を惹起し, 局所の炎症性反応以外に全身的な影響を発現し得るが, この両者の関連について検索した報告は少ない. そこで, 細菌内毒素侵入による局所反応と同毒素の局所外移行との関連について分析し, 根尖性歯周炎の消長と細菌内毒素との関連を考察する目的で本実験を行った. 実験材料および方法 実験には6週齢のSD系ラットを使用し, EtとしてE. coil 0111: B4 LPSを選択した. 血流中および空気嚢内Etは合成色素法(エンドスペシー: 生化学工業)で定量した. 実験1: ラット105匹の背部皮下に空気嚢を形成した. その翌日に35匹の空気嚢にLPS 0.1mgを投与し, 投与1日後から7日後まで毎日5匹を屠殺して, 体重, 血中Et濃度, 空気嚢湿重量および空気嚢内容液中のEt量, 白血球数, 白血球分画を測定し, 空気嚢壁組織をH-E染色により観察した(P-LPS群). 他の35匹については空気嚢内に生理食塩水のみを投与し, 同様の実験を行った(Cont-1群). 残りの35匹のラットについては, 尾静脈からLPS 0.1mgを投与し, 体重と血中Et濃度の測定を行った(V-LPS群). 実験2: ラット48匹の背部に皮下空気嚢を形成した. その翌日に24匹の空気嚢内にLPS0.1mgを投与し, 4日後に再度同量のLPSを同じ空気嚢内に投与した. LPS再投与翌日から4日後まで毎日6匹のラットについての体重, 血中Et濃度, 空気嚢湿重量および空気嚢内容液中のEt量, 白血球数, そして, 白血球分画を測定し, さらに, 空気嚢壁組織をH-E染色により観察した(Ex群). 他の24匹の空気嚢内には生理食塩水を投与し, その4日後にLPS 0.1mgを同じ空気嚢内に投与して, Ex群と同様の測定, 観察を行った(Cont-2群). 結果 実験1: P-LPS群, V-LPS群ともLPS投与後体重の低下および血中Et濃度の上昇が認められ, V-LPS群において顕著であった. 体重は7日目まで, 血中LPS濃度は3日目まで両群間に有意の差を認めた(p<0.05). P-LPS群の空気嚢内Et量は1日目に620±75pg, 2日目に70±12pgを示し, 以後漸減した. 空気嚢内容液中の白血球の殆どが多形核白血球であったが, 経日的にマクロファージの占める割合が増加した. 空気嚢壁には3日目から内腔にむけて線維性結合組織の増殖がみられた. 実験2: Cont-2群の各結果はP-LPS群とほぼ同様であった. Ex群では, 血中Et濃度は実験期間を通じてCont-2群と比べて有意に低く(p<0.05), 早期に正常値に復した. 逆に, 空気嚢内Et量は全実験期間を通じてEx群のほうがCont-2群より有意に多かった(p<0.05). 空気嚢内容液の白血球中にマクロファージの占める割合の上昇と空気嚢壁の線維性結合組織の増殖がEx群においてCont-2群よりも早期から認められた. 以上の結果から, 根管を介する細菌内毒素の侵入に対する反応として, 根尖部歯周組織に炎症性肉芽組織が形成され, その炎症性肉芽組織は全身への細菌内毒素の拡散を抑制し, さらに, 内毒素の侵入が持続的であると, その拡散を抑制するために炎症性肉芽組織が増殖を続ける可能性が示唆された.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 58 (2), g63-g64, 1995

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204210135424
  • NII論文ID
    110001724638
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.58.2_g63
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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