中枢作用薬の成功確率向上への取り組み―PDE10A阻害薬の開発について―

  • 木村 温英
    武田薬品工業株式会社 医薬研究本部 中枢疾患創薬ユニット

書誌事項

タイトル別名
  • A strategy to improve the success rate of CNS drug development: TAK-063, a novel PDE10A inhibitor, as a case study
  • チュウスウ サヨウヤク ノ セイコウ カクリツ コウジョウ エ ノ トリクミ : PDE10A ソガイヤク ノ カイハツ ニ ツイテ

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抄録

<p>中枢作用薬の成功確率は残念ながら非常に低く,これを高めうるありとあらゆる手段を講じる必要がある.そのためには遺伝子変異や臨床知見に着目した創薬ターゲットの選択が鍵といえるが,残念ながら統合失調症治療においては未だにドパミンD2受容体拮抗作用以外に確立された創薬ターゲットはない.線条体では中型有棘細胞がドパミンD1受容体を発現する直接路とドパミンD2受容体を発現する間接路を構成している.抗精神病薬はそのドパミンD2受容体拮抗作用によって,間接路中型有棘細胞内のcAMP濃度を高め神経回路を活性化することで薬理作用を発揮すると考えられている.ホスホジエステラーゼ10A(PDE10A)は,直接路と間接路を構成する両方の中型有棘細胞に発現する酵素で,cAMPとcGMPの分解活性により,これら神経細胞の活性化制御に関わっている.従ってPDE10A阻害薬では,間接路の活性化とこれに基づく抗精神病作用に加え,直接路の活性化による錐体外路症状の軽減や認知機能の向上が期待でき,比較的成功確率の高いターゲットと考えられてきた.しかし期待に反して,これまでに臨床試験で有効性と安全性が立証されたPDE10A阻害薬はない.非常に興味深いことに我々は,PDE10A阻害薬の解離速度が直接路と間接路の活性化パターンを規定し,これが薬理プロファイルに強く影響することを見出した.本総説ではPDE10A選択的阻害薬TAK-063の研究開発を例に,中枢作用薬の成功確率向上における創薬コンセプトの明確化とこれに基づく薬剤探索戦略の重要性について述べる.さらに,positron emission tomographyトレーサーやelectroencephalogram,pharmacological magnetic resonance imagingなどを駆使したトランスレーショナルリサーチの取り組みについても簡単に紹介する.</p>

収録刊行物

  • 日本薬理学雑誌

    日本薬理学雑誌 149 (4), 160-166, 2017

    公益社団法人 日本薬理学会

参考文献 (19)*注記

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