気候変動下における自然保護区での生態系への影響と適応策 : とくに海外における知見と実践例を中心に

  • 大澤 隆文
    ダルハウジー大学大学院環境・資源科学専攻

書誌事項

タイトル別名
  • Influences of climate change on ecosystems in protected areas and their adaptation measures : insights and case studies from abroad
  • キコウ ヘンドウ カ ニ オケル シゼン ホゴク デ ノ セイタイケイ エ ノ エイキョウ ト テキオウサク : トクニ カイガイ ニ オケル チケン ト ジッセンレイ オ チュウシン ニ

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抄録

我が国の自然保護区は生物多様性(種多様性及び遺伝的多様性)、景観及び多面的機能(水源涵養等)の維持を目的に設置されている場合が多い。しかし、気候変動の影響を受ける中で、これらの自然保護区における生態系が今後どのように変化していくのか、保護区の諸目的を達成するためにどう生態系を保全していくかについては、海外での研究や実践例から学べる点も多い。本稿では、これらを整理・紹介することを目的とした。種や生態系の地理的分布がいつまでも変わらないという静的な考え方は今後(気候が変動する中で)通用しなくなることから、自然保護区同士の連結や拡大を含む弾力的な活用が望ましいことが判明している。しかしまた、利用可能な財源や土地空間が限られる場合には、こうした弾力的な運用は実現可能性に乏しいことも指摘されており、寧ろ既存の自然保護区を今後どう管理していくかを熟考することが重要となってくる。後者については、昨今、気候変動脆弱性評価(CCVA)、専門家の知見集約、対話による生態系シナリオ予測、特定の種を保全するための適応策(ACT)等が順次開発・適用されつつある。これらの手法は、特定の種や生態学的視点に留まらず、生態系の構成主要種を各種の生態学・生理学・遺伝学、また種間の相互関係等の知見から包括的にリスク評価するものであり、実施可能な対策の優先順位付けまで行う。さらには、生態系の位置が徐々に今後変化するという動的な考え方に立脚すると、低緯度地域や低地から侵出してくるであろう非在来種も、ただ単に有害な外来種として駆除し続けるのではなく、生態系の多面的機能や景観の維持に貢献する場合或いは侵入して来た種が他に逃避地を有さない場合には、その侵入と定着をやむなく容認する(せざるを得ない)という考え方もアメリカ等で生まれている。また、温暖な気候に適応した対立遺伝子を、高緯度地域や高地の集団に導入することで、集団の維持を可能にさせるということも考えられる。こうした流れは、従来の静的な考えに立脚する自然保護区の思想を変えてゆく可能性もある。

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