THE SKAGIT RIVER : A MICROCOSM OF RIVER BASIN AND WATER RESOURCE PROBLEMS AND POTENTIALS

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  • Skagit River A Microcosm of River Basin

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抄録

この論文は,昭和52年11月18日の中四国都市学会大会での学術講演である。研究の対象となったスカキノト川は,アメリカ合衆国の北西部,ワシント州北部でピューゼットサウンド湾に注ぐ延長163マイルの川である。この川とその流域のかかえる水資源ならびに環境保全上の問題は,上流部の28マイルがカナダ側にあるという国際性とともに,上中流域は森林公園地区であり資源保繊の対象となっているのに、下流部では人口の多い都市地域や農業地域であって,水資源を多く必要とする地域であること,とくに工ペレット=シアトル=タコマの都市地域は人口も多く水力発電にスカギット川を開発利用したいとしいう経済的問題がからんでいることに特色がある。広島県の三次盆地を流れる江ノ川が,広島・島根の県際河川であることと,洪水をしばしば起してしていること,ならびに広島湾岸地帯の人口集中地域をかかえての水資源利用の対象となっていることを考えると,スカギット川の問題共通するところがある。スカキント川の下流域の人口約6万のうち2万が小さい都市や町に件んでいて,これら都市の規模からみても三次市と類似している。スカギッド川の流域は,カナダ側が地方管轄の公園地区に指定されており,アメリカ側でも約70パーセントが連邦管轄下の土地で,5パーセントがワシント州管轄である。そのなかには国有林をはじめ国立公園が多く景観も美しく,多くの針葉樹林や多種にわたる野生動物がいる。降水量はカスケード山脈があるため多く,氷河もあり水量は豊かで,水は乳白色であり,時々大畑模な洪水を起す。下流のデルタ地帯は肥沃で優れた農業地帯ともなっている。1924年以降,記録によると少なくとも29回の洪水をみており,流域にはんらんによる被害を与え、土砂流量は極めて多い。ロスタムはシアトル電力会社の建設によったもので,五つを数える同川のダムのうち最大で洪水調節には重要な役割を果たしている。連邦政府による洪水統御の施策はない。中流のべ一カーダムは規模が小さい。スカギット郡は1970年にワシントン州法に基づいて総合的な洪水統御計画をつくった。この川の開発では,電力利用の水資源開発の歴史が古く,1937年にシアトル電燈会社がロスタムの建設に着手した。ただロスタム貯水池は人口湖としてカナダ側にも及ぶため,1940年代の両国間協定によって貯水量を抑え45万キロワットの発電力となった。べ一ヵ一川(支流)の.二つのダムでは年間238万キロワット時の電力生産を行っている。この後者はピューゼットサウンド班力会社のものである。ところで,シアトル電燈会社は,電力需要に応ずるためロスタムの高さを122.5フィート上げ貯水量を増加さそうとした。1940年代の米・加両国協定についてカナダ側も改めて確認をしたものの,この計画では,カナダ側の土地5,700工一カーが水没する。カナダ側の流域は1940年代に比べると,環境が大きく変わっている。ブリテッシュコロンビア州の人口は当時は4分の1であったし,経済発展の水準も低かった。もちろん,米・加の両州の人口・経済は膨脹している。1972年にカナダのブリテッシュコロンビア州は,流域を公園に指定し,生態保全とレクリェーション地域とした。もっとも同州の政府が社民党党政権となったこともあづかっている。ロスタム貯水池拡大の試みは,両国間委員会に提案されたものの両国の環境保全グループの反対運動もあって実現をみていない。電力会社は,需要増加に対応して,他の新しいエネルギー(太陽熱や原子力)を求めざるを得なくなった。他方,ピューゼットサウンド電力会社でも需要に応じるべく原子力発電所建設を計画したが,環境保護政策との関係が生じ,1975年に公聴会も行われたが,建設許可を得る見込みはない。北米太平洋岸の北西部は,経済発展は著しく,エネルギー源をカナダから供給することが考えられている。ただ,以上で述べたスカギット川の資源開発と環境保護とのからみ合いの現実からみて,その問題の提起は,ひとつの小さい河川流域の問題ではないことである。河川上流の保全は,単に美しいというようなことではなく,全体として地域のレクリエーションに対する需要の潜在的な増加ということである。経済発展との関係を考えたとき,開発と環境保全というデリケートな均衡についてはもっと長期的かつ注意深い調査研究と努力を通して接近が必要である。

収録刊行物

  • 地理科学

    地理科学 29 (0), 34-41, 1978

    地理科学学会

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