結晶スポンジ法による極小量化合物のX線結晶構造解析
この論文をさがす
説明
分子の構造決定が迅速かつ正確にできるようになれば,研究の急速な発展が見込める分野は数多い.合成化学や天然物化学,代謝解析など,分野によって差はあれ研究時間においてかなりの部分が分子構造の決定に費やされていることは疑いようがない.当然,扱う化合物も様々であるため,予想される構造や化学的性質に基づいて研究者は質量分析や核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance:NMR),赤外・可視・紫外分光などの分析ツールを使い分け,最終的には複数のデータをもとに真の構造に迫らなくてはならない.各測定機器は測定精度や使いやすさの面で飛躍的な発展を遂げてはいるが,これらのデータを総合的に解釈し矛盾のない構造へと結び付ける作業だけは,自動化が困難で時間を要するのが現状である.<br>そのような分析手法の中で,単結晶X線構造解析はひときわ精度よく分子の立体構造を得ることができる.2次元NMRなど測定時間のかかる分光法を駆使しても大雑把にしか掴めない分子の立体化学が,原子間距離まで100分の1オングストロームの単位で正確に決定できる点は,この手法の利点であるといえる.すべての化合物を単結晶X線構造解析によって構造決定できれば,結果として研究全体の大幅な時間短縮につながるのだが,この手法には1つの大きな難点があった.それが化合物の結晶化である.NMRの測定サンプルが化合物を重溶媒に溶かすことで調製されるように,単結晶X線構造解析ではサンプルの単結晶を作製しなければ測定ができない.しかし,すべての化合物が結晶化するという保証はなく,結晶化に要する時間やサンプル量も予測が困難であることから,敬遠されるケースも少なくはない.<br>最近,筆者らは結晶化の過程を全く必要としない「結晶スポンジ法」という単結晶X線構造解析のための新しい手法を開発した.この手法では,結晶スポンジと呼ばれる細孔性結晶の細孔に対象化合物を吸収させるだけで,測定用の単結晶サンプルが作製できる.そのため,対象化合物の結晶性は全く問題とせず,油状のサンプルであっても単結晶試料が得られる.また,100μm角の結晶スポンジ1粒で試料が調製できるため,ナノグラム量のサンプルでも解析が可能になった.本稿では,この最新手法の成り立ちと適用範囲,そして研究への応用を紹介する.
収録刊行物
-
- ファルマシア
-
ファルマシア 50 (8), 756-761, 2014
公益社団法人 日本薬学会
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390001204498675200
-
- NII論文ID
- 130005246011
-
- ISSN
- 21897026
- 00148601
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可