糸状菌のマルトース分解酵素に関する研究(第2報)

書誌事項

タイトル別名
  • Studies on Maltose Splitting Enzymes of Moulds. Part II
  • シジョウキン ノ マルトース ブンカイ コウソ ニ カンスル ケンキュウ 2
  • On the Reaction Mechanism of the Crystalline Transglucosidase of <i>Aspergillus niger</i>
  • <i>Aspergillus niger</i>の結晶トランスグルコシダーゼの作用機作について

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抄録

Asp. nigerのトランスグルコシダーゼをマルトース分解作用の見地から検討し,同時に糸状菌の糖化型アミラーゼのマルトース加水分解作用と比較した.<br> トランスグルコシダーゼは基質の濃度によって作用の形式を異にし,低濃度の基質に対してはほとんど加水分解作用のみを行い,濃度の増加とともに転移作用による生成物を生じる.また基質の濃度が等しければ,酵素量のいかんを問わず最終的には同じ分解値に達し,転移生成物の量も等しい.これらの事実はこの酵素の分解と転移の両作用の間には基質の濃度によって一定の平衡関係が存するためと推論される.<br> これに対し,糖化型アミラーゼは,マルトースに対しいかなる濃度において作用しても,加水分解のみを行い常に100%近い分解値を示す.<br> トランスグルコシダーゼのこのような性質は,この酵素を含む糸状菌の澱粉分解系の最終糖化率に大きな影響を与えることはα,糖化型両アミラーゼとトランスグルコシダーゼの混合系における実験からも明らかになったが,特に高濃度の澱粉の存在のもとで行われるアルコール醗酵の前段の糖化工程や,ブドウ糖製造工業における使用酵素の是非を決定する上で重大な因子となるものと推察される.次にトランスグルコシターゼの示す転移作用の機作について,生成物の組成を検討した結果から若干の考察をのべる.すでにPazur(6)Asp. oryzaeのトランスグルコシダーゼのマルトースに対する作用機作について,この酵素がα-1, 4 glucoside結合のα-1, 6 glucoside結合への転移を触媒するものとみなし,次表のごときschemaを提出している.すなわち第1段階においてマルトースと酵素はグルコースとグルコース-酵素複合体(G・E)にわかれ,第2段階においてG・Eから受容体となる糖の非還元性末端のグルコース残基の6位にダルコースが移るものと推論している.<br> 著者らのマルトースを基質とした実験においても,反応の初期には多量のパノースが蓄積し,反応が進むとともにイソマルトースの増加が見られるという事実は, Pazurのschemaの第1段階によって生じたG・Eが,はじめ多量に存在しているマルトースを主な受容体としてパノースを生成し,爾後,反応液中のグルコースの濃度が高まるとともに,これが受容体となってイソマルトースを生じる故であると考えられ, Pazurの推論はある程度首肯できるものと考える.しかL,著者らの実験では,反応の後期に至っても, Pazurらがその存在を特に指摘している4-isomaltotriosyl-glucoseの存在はほとんど認められず,むしろ僅少といわれているイソマルトトリオースの生成量が高い.このことはパノースを出発物質とした場合に反応の初期から多量のイソマルトースが生じる事実とともに,パノースに対するこの酵素の作用が,パノースを受容体として4-isomaltotriosyl-glucoseを生じるのみならず,何らかの態でパノースの分解をも行っていることを示唆するものと考えられる.<br> なお,中村,菅原らによって得られた麹菌の結晶マルターゼ(13)も,マルトースからの生成物の種類はこの酵素によって得られるものとほぼ等しく,マルトースに対しては同様の作用機作をなすものと考えられる.<br> またいずれの糖を基質とした場合にも,比較的少量ではあるが,ニゲロース等の糖の生成がみとめられる事実は,この酵素がα-1, 4結合からα-1, 6結合への転移のみならず, α-1, 2, α-1, 3結合の生成をも触媒するものと解せられる.<br> 次にこの酵素のマルトペンタオースに対する作用力はマルトトリオース等の三糖類に比して著しく劣り,さらに平均重合度6.5のα-β-リミットデキストリン,及びそれ以上の高分子の基質には全く作用しないことから,この酵素の作用し得る基質の大きさの限度がグルコース重合度で5~7の間にあるものと推察される.また,生成した糖の側から考察すると,いずれの基質からも三糖類以上の糖の生成は僅少であり,ぺーパークロマトグラムからの判断では,重合度5ないし6以上の糖の生成は皆無とみなされる.これはまた合成される糖の大きさについても分解と同様の限度が存するものと推論され,酵素と基質との親和性の限界を示す一事実と考えられる.

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