繭絲の構成に閥する研究 (XII) 絹絲腺内に於る液状絹の熟成現象の基因に就て

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抄録

第11報によつて確め得た蠶體の絹絲腺内に起るフイブロインの熟成現象の原因を研究し次の如き結論を得た。<BR>(1) 後部絲腺にあるフイブロインのpH價は6.8-7.0附近にある。中部絲腺にある絹物質に於てはセリシン及フイブロインの混合液に於てはpH重58-6.0附近にあり試驗區の如きセリシンのみの場合はpH5.6-5.8内外を示した。(但し實驗に便用せる濃度に於て)<BR>(2).中部絲腺及後部絲腺にて分泌されたセリシン、フイブロインは分泌後貯留中に於て極めて微少ながら聚合性を檜加する。<BR>(3) 後部絲腺内のフイブロインが中部絲腺に途られると急激に其の性質を變化する。而して此の部分に於けるフイブロインの性質變化は後部絲腺内に於ける變化と比較して極めて大である。此の作用はフイブロインがpH價小なるセリシンに接觸することによりて起るものと考へる。中部絲腺に於けドるフイブロインの熟成作用はフイブロインの自らの夢子聚合度促進作用とpH價小なるセルシンに接觸することによりて起る作用との綜合結果で後者による影響が極めて大である。<BR>(4) 從來説示された内部摩擦の増加と云ふことを屯後部絲腺内のみに就て考へるとフイブロイン自らの分子聚合度促進作用と酸性物質であるセリシンに接するこどによりて起る作用の綜合結果であると云ふことが出來る。此の場合フイブロインは第11報及本實驗の結果より考へて脱水作用を拌ふこと, も推定し得た。<BR>(6) 内部摩擦の増加は中部絲腺より前部絲腺へ移動する間に更に進む。此の作用はフイブロインが細くなり其の表面積を増すためにセリシンの作用を一層強く受けるためと考へる。而して前部絲腺以後の作用は吐絲に當つて起るものと考へると吐絲に當つて内部摩擦を増加すると云ふ手塚博士の読も此の部会に於けるセリシンの作用の延長と考へることが出來る。<BR>(7) セリシンに於てはフイブロインと接觸してゐる對照區の中部絲腺内のものに於ても水に良く分散することから考へると此のものは其の凝固過程がフイブロインの其れと異ることが推定出來る。即ち中部絲腺内に於てセリシンの性質變化は極めて僅かにしてフイブロインに比して聚合度の低い状態にあることが推定畠來る。<BR>此のものが前部絲腺を經て吐絲される間に吐絲區に於て更にpHの大なるFilippi腺の会泌液によりて初めて稍聚合度を高め外部に出てフイブロインに添ひて牽引状態にて乾固されることによりて粒子の配列性を生ずると云ふことが考へられろ。此の推定は第7, 第8報に於て實驗せる結果下せる推定と同様である。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204532091008
  • NII論文ID
    130004029042
  • DOI
    10.11416/kontyushigen1930.14.156
  • ISSN
    1884796X
    00372455
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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