絵画における光と影について

書誌事項

タイトル別名
  • ―江漢の陰影表現―

説明

一般的に, 空間やものを2次元の平面上に仮象的に描きだす絵画では, 描かれた光と影の表現が, 巧みなほど仮象の度合いは高くなる。西洋では15世紀に, 遠近法とともに光の位置の重要性にも注目しているし, 東洋では, 西洋とは異なった陰影表現法 (明暗法) がある。空間を明確に再現しようとするとき, 光が描かれなければ空間感は弱いかも知れないが, 陰影表現が巧みであれば, 果たして描かれた空間を確実に認識できるのだろうか。この研究では, 日本と西洋の絵画に描かれた光と影を図法に基づいて分析し, 地域性や文化的側面とどのように関わるかを比較しながら, どのような表現がリアルなのかの手がかりにしたい。これらは, 空間認識と表現の問題にも関わるし, 絵画やデザインの創造活動, またコンピュータ・グラフィックスの表現のヒントとしての展開も可能である。ここでは第一段階として日本絵画をとりあげる。伝統的日本絵画には陰影表現が稀薄であるが, 18世紀になって西洋の線遠近法とともに陰影法が日本へ導入された。この過渡期に制作された司馬江漢の作品には, 近代にはなりきれない曖昧な表現が残っていて, 理論的な方法ではなく経験的な見方で陰影が描出されたと思われる。また日本人はけして鋭い光ではなく柔らかい光を好む傾向にあり, 陰影表現が瞹昧であることは, このような指向の反映とも思われる。江漢の作品は, 単に見えたように描くための技術の習得による情景表現としてだけでなく, 制作者の想いが伝わってくるようである。

収録刊行物

  • 図学研究

    図学研究 33 (Supplement), 121-126, 1999

    JAPAN SOCIETY FOR GRAPHIC SCIENCE

被引用文献 (1)*注記

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204635569408
  • NII論文ID
    130001819672
  • DOI
    10.5989/jsgs.33.supplement_121
  • ISSN
    18846106
    03875512
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • Crossref
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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