企画セッション1 医学の立場からみたバイオフィードバック(バイオフィードバックの定義について考える)

  • 中尾 睦宏
    帝京大学公衆衛生大学院・医学部附属病院心療内科

書誌事項

タイトル別名
  • Organized session 1 Biofeedback from a view of medicine(Definition of biofeedback)

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説明

本シンポジウムでは,「バイオフィードバック」の定義について,関連する問題と合わせて議論をした.バイオフィードバックとは,「意識にのぼらない情報を工学的な手段によって意識上にフィードバックすることにより,体内状態を意識的に調節することを可能とする技術や現象を総称したもの」である.意識にのぼらない情報とは自律神経系や内分泌機能など自覚できない生体情報を指し,そうした情報を工学的機器を用いて知覚できる形に変換して提示し,自らその生体反応の制御を試みる.最終的にはバイオフィードバック法として,身体・心理・行動的な生体反応の制御がどこまで可能か開発を進めていく.ところがバイオフィードバックが医学応用され治療法として確立されるためには,思った以上に課題が多く厳しい作業となる.体内状態を意識的に調整するためには,どのくらいの精度・情報タイムラグまでが許容できるのか,フィードバック信号提示の頻度・強度はどの程度が適当なのか,臨床で数多くの試行錯誤が必要となる.さらにその臨床効果のエビデンスを厳密に証明することが難しい.例えば,東京大学医学部附属病院心療内科では分院(現在は本院に統合・廃院)が稼動していた1980-90年代に,血圧バイオフィードバックを臨床応用できないか研究を続けていた.現在の学会理事長の野村先生が実験を重ねながら血圧バイオフィーバック装置の開発を進め,当時大学院生であった筆者が内科から高血圧患者を紹介してもらって血圧バイオフィードバック法を試みた.その結果,ランダム化比較試験により血圧バイオフィードバック療法が高血圧症の血圧降下に役立つことを証明した(Psychosom Med 59:331-338,1997).さらにメタ分析によってバイオフィードバック群と比較対照群との間の血圧降下量の差を算出し,バイオフィードバック群の方が有意に大きな効果があることを証明した(Hypertens Res 26:37-46,2003).筆者らの研究成果はそのままコクランライブラリーの専門検討委員会において基礎資料として採用され,バイオフィードバックが高血圧症の血圧低下に寄与することが国際的に認められて現在に至っている.ただしこのコクランライブラリーでは,バイオフィードバックはリラクセーション法の1つとして位置づけられており,バイオフィードバック信号を提示すること自体の特異的な意義については考慮されていない.また筆者が1998-2001年に師事したハーバード大学医学部心身医学研究所所長のベンソン先生も,最初は血圧バイオフィードバック法に取り組んでいたが,その後リラクセーション技法を臨機応変に用いるストレスマネージメント法へと治療法を切り替えている.このようにバイオフィードバックを医学の立場から考えると,リラクセーション技法との類似・相違点を明らかにすることが,1つのポイントになりそうである.

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