オットセイ甲状舌骨筋の筋線維構成について

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  • 中嶌 哲
    昭和大学医学部第二解剖学教室 松本歯科大学口腔外科学第一講座

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タイトル別名
  • MYOFIBROUS ORGANIZATION OF THE THYROHYOID MUSCLE OF FUR-SEAL

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抄録

資源調査のため, 水産庁遠洋水産研究所で捕獲されたオットセイの雌9頭につき, 甲状舌骨筋の筋線維構成をヒトおよび他の動物と比較して, オットセイ生態の特徴としての開口, 発声, 嚥下に関与する同筋の特性ならびに年齢的変化を検討した.筋の比較はHE染色ならびにSudan Black B染色によった.結果は次の通りである.1) オットセイの甲状舌骨筋の筋線維構成はHE染色標本でヒトのそれと比較すると, 筋腹横断面積と筋線維の太さは小であったが, 1mm2中の筋線維数と断面の筋線維総数は多くて密度が高かった.すなわち, ヒト舌骨筋群中最も発達した顎舌骨筋に近く, ヒトに比較して著しく発達していると考えられた.2) Sudan Black B染色標本によるカニクイザルの舌骨上筋群の各筋と比較すると, オットセイの甲状舌骨筋は筋腹横断面積は大, 筋線維総数も多く, 1mm2中の筋線維数および筋線維の太さは顎舌骨筋および顎二腹筋前腹とおおよそ等しくて他よりも優り, 密度はすべての筋よりも高い傾向が見られた.また, 筋線維型によって見ると, カニクイザル舌骨上筋の各筋よりも白筋線維が多く, その太さは顎舌骨筋および顎二腹筋前腹とおおよそ等しくて他よりも著しく大であった.3) 下咽頭収縮筋との比較では, 同一オットセイのものよりも筋腹横断而積は小で筋線維総数は少なかったが, 1mm2中の筋線維数はほぼ等しく, 密度はむしろ高かった, また, 3筋線維型の頻度はほぼ等しく, 太さは何れも大であった.さらにヒトのそれよりも白筋線維が太く筋線維の密度は高かった, 4) 年齢的にオットセイ資料の4歳以下と5歳以上では筋腹横断面積には画然とした差が認められ, 筋線維については4歳以下の例では1mm2中の筋線維数は多く, 筋線維の太さは小で, 筋線維総数と密度は5歳以上と差がなかった.すなわち, 4歳までは発育期であり, 筋線維数はその前に一定数に達していると考えられた.5) HE染色標本とSudan Black B染色標本の比較では, 前者の収縮率は切片断而積の35%に対し, 筋線維の太さでは30%で比較的一定し, この差は筋線維問結合組織の差によると考えられた.

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