司会のことば(<シンポジウム>心身医学が進むべき方向)(2004年/第45回日本心身医学会総会)

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抄録

第45回日本心身医学会総会の最終日に永田頌史会長の発案で,「心身医学が進むべき方向」と題してシンポジウムが開催された.シンポジストとしては東京大学心療内科の熊野宏昭氏,九州大学心療内科の久保千春氏,関西医科大学心療内科の中井吉英氏,琉球大学精神衛生学教室の石津宏氏,そして指定発言に鹿児島大学心身医療科の成尾鉄朗氏が指名され,座長は筆者と久保千春氏が務めた.まず,熊野氏より「東京大学心療内科から」と題して,その研究方法論と臨床活動について述べられた.研究方法論としては,Ecological Momentary Assessment(EMA),大脳機能検査,神経内分泌学の3つを中心に据えた具体的な説明と現在までに得られているエビデンスが紹介され,今後の心身医学の研究方向が示された.また,臨床活動においては,心身症,摂食障害,パニック障害,軽症うつ病などが中心であること,精神科とは自ずから守備範囲が重なってくるが,心療内科はあくまでも身体や行動の側から眺めていくという特徴と,コミュニケーションの観点からは,「話せばわかる」という立場を堅持することが述べられた.次に,久保氏より,「九州大学心療内科から」というテーマで,臨床活動においては東京大学心療内科とほぼ同様のデータが,研究面ではストレス研究の新しい動物モデルなどが提示され,多くの研究グループの具体的な研究成果が発表された.臨床面,そして研究面においてevidence based medicineを追求しているスタンスが強調された.東京大学と九州大学がほぼ同様の方向へ研究を展開していることが確認されたことは,今回のシンポジウムにおける大きな産物の一つとして挙げることができよう.3番目は,中井氏より,「全人的医療学の臨床,教育,研究を通して」と題する発表があった.30年以上前より心身医学の中心に据えられてきたbio-psycho-socio-ecologicalモデルに基づく,関西医科大学における臨床,教育,研究の実際と今後の展望が述べられたが,心身医学がもつnarrative based medicineとしてのよさが遺憾なく発揮された発表であるという印象を強くもった.4番目に石津氏より「精神医学的視点と課題」と題して,精神医学と心身医学の近似点や相違点に関して具体的な例を挙げて説明が示された.また,研究面ではゲノムレベルに及ぶ近年のbiological psychiatryは,心身医学に多大なresourseを提供し,心身相関の脳内機序やPsychoneuroendocrinoimmunomodulationメカニズム,器官選択性や個体のストレス耐性の解明などに新しい展開が期待できると述べた.一方,心身医学のbio-psycho-socio-ethics-ecologicalな考え方は,精神医学に人間学的な新展開を加えることが期待されると結んだ.最後に,成尾氏は指定発言として,「大学での教育,臨床,研究で果たすべき役割」と題して述べた.成尾氏は,「現時点で考えられる問題と方針としては,まずは学部教育と卒後教育段階での心身医学的知識や診療,研究スタンスへの啓蒙を充実させることと,リエゾン的役割をより積極的に発揮するとともに,臨床各科における心身医学的問題症例への能動的関与の機会を増やすことが重要と考える」と結ばれた.発表後,フロアの先生方を交えた討論も活発に展開し,今後の心身医学の進むべき方向に関して有意義なシンポジウムとなった.

収録刊行物

  • 心身医学

    心身医学 45 (4), 274-, 2005

    一般社団法人 日本心身医学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204891187200
  • NII論文ID
    110001523463
  • NII書誌ID
    AN00121636
  • DOI
    10.15064/jjpm.45.4_274
  • ISSN
    21895996
    03850307
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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