食品取り扱い従事者糞便からのPCR による 腸管系病原菌保菌者検索の検討

  • 馬場 洋一
    一般財団法人東京顕微鏡院食と環境の科学センター
  • 林田 瑞穂
    一般財団法人東京顕微鏡院食と環境の科学センター
  • 高岡 直子
    株式会社島津製作所分析計測事業部
  • 西村 直行
    株式会社島津製作所分析計測事業部
  • 伊藤 武
    一般財団法人東京顕微鏡院食と環境の科学センター

書誌事項

タイトル別名
  • Detection of Enteric Pathogen Bacteria with the PCR Method from Mixed Fecal Specimens of Food Handlers
  • ショクヒン トリアツカイ ジュウジシャ フンベン カラ ノ PCR ニ ヨル チョウカンケイ ビョウゲンキン ホキンシャ ケンサク ノ ケントウ

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抄録

食品取り扱い従事者の衛生管理としての腸管系病原菌保菌者検索は,従来,赤痢菌,サルモネラ属菌,腸管出血性大腸菌を対象とした培養法により実施されてきた.近年,混合糞便検体から直接それらの細菌の遺伝子を増幅し,高感度で迅速,かつ簡便に検出できる方法が開発された.本研究では,その一つである『腸管系病原菌遺伝子検出キット(島津製作所)』を使用したスクリーニング法(以下遺伝子スクリーニング法)が,実用的な検査法として導入可能であるか,培養法との比較により検討を行った.遺伝子スクリーニング法は,糞便検体を蒸留水で約2.5%濃度の糞便懸濁液に調整後,50 検体分まとめたものを混合糞便検体とし,赤痢菌,サルモネラ属菌,腸管出血性大腸菌それぞれに特異的に反応するマルチプレックスPCR にて増幅後,MCA(Melting Curve Analysis)にて測定を行った.また,遺伝子スクリーニング法と並行して,従来の培養法と同様にSSPRO 寒天平板培地(関東化学)とクロモアガーSTEC 寒天平板培地(関東化学)による分離培養も同時に行った.以上の実験系にて,陰性混合糞便に培養菌を添加した検出感度試験,陽性検体を用いた遺伝子スクリーニング法と培養法との並行試験,および実検体5,000 検体について遺伝子スクリーニング法と培養法との並行試験を行った.検出感度試験の結果,遺伝子スクリーニング法による検出感度は,従来の培養法と同等の糞便1g 当たり104cfu から105cfu であった.また,陽性検体を用いた並行試験の結果,サルモネラ属菌陽性検体10 検体,腸管出血性大腸菌陽性検体10 検体,赤痢菌陽性模擬検体10 検体のそれぞれ10 検体すべて遺伝子スクリーニング法と培養法の両者で陽性となり一致した.これらの試験から必要とされる感度を有していることが確認できた.5,000 糞便検体を使用した並行試験では,1 検体が遺伝子スクリーニング法と培養法の両者でサルモネラ属菌陽性,残りの4,999 検体が遺伝子スクリーニング法と培養法の両者で陰性となり一致した.このことから十分な特異度を有していることが確認できた.今回の検討では遺伝子スクリーニング法のPCR により遺伝子陽性であったが培養にて陰性となった6 検体について再度培養検査を行い,うち3 検体から通常の保菌者検索では実施されていない増菌培養法や選択性の低い分離培地を用いた培養法で陽性が認められた.以上の検討により,遺伝子スクリーニング法を食品取り扱い従事者の腸管系病原菌保菌者検索に導入することは可能であると考えられた.

収録刊行物

  • 感染症学雑誌

    感染症学雑誌 88 (5), 685-694, 2014

    一般社団法人 日本感染症学会

被引用文献 (1)*注記

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参考文献 (7)*注記

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