特集「海岸環境と緑化工」

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書誌事項

タイトル別名
  • SPECIAL ISSUE “Coastal Environment and Regeneration Technology”
  • A comment for the coastal environment and biodiversity
  • 特集「海岸環境と緑化工」にあたって

抄録

わが国は四方を海で囲まれ,海岸線の総延長は世界第6 位で,約35,000 km 1)にも及ぶ。長い海岸線の多くには海岸林があり,それらの多くは主に藩政時代より先人が飛砂と闘いながら創り上げてきた歴史を持つ。また,海岸林の多くは潮風や飛砂に耐性があり,砂地という貧栄養条件下でも生育できるマツが用いられてきた。マツは樹林として防潮,防風,防砂機能を発揮するとともに,特にクロマツは火力が強いために沿岸部での製塩用の材としても大いに重用されたほか,落葉や落枝は定期的に採取され,日々の炊きつけとして利用されるなど,沿岸部に居住する人々と密接不可分の関係が築かれてきた。第二次世界大戦後には食糧増産のための砂地農業開発により,それらの農地を保護するための海岸林も造成された2)。しかし,沿岸住民を守ってきたマツの海岸林も,製塩業の衰退,燃料革命によるエネルギー転換などにより住民の生活と乖離するようになり,更にそれに追い討ちをかけるようにマツザイセンチュウ病の全国的な蔓延により,多くが衰退の危機にある。マツ枯れ跡地には広葉樹が侵入定着し,マツの海岸林から広葉樹の海岸林へ変化している場所もある。行政の中には,すでに広葉樹による海岸林造成に取組み始めたところもある。先人が経験と智恵により築いてきたマツ海岸林に対して,広葉樹の海岸林はほんとうに防潮,防風,飛砂害に対して耐性をもった樹林を形成してくれるのだろうか?マツ林を再生した場合,再びマツ枯れ被害にあうというリスクは回避できるのであろうか?海岸林の樹林目標をどのように設定していけば良いのであろうか?など多くの議論がある。<BR>一方,わが国の海岸の55% はすでに人工海岸になっている3)。河川からの土砂供給量の減少など様々な理由によって海岸侵食が進んだり,人工構造物の敷設によって沿岸流の流れが変化した結果,侵食海岸と堆積海岸が発生するなど,沿岸域における砂供給のバランスが壊れている場所もある。これらの変化は,特に砂浜海岸の環境に大きな影響を及ぼしている。砂浜幅の増減は海浜植生の成帯的構造に影響を及ぼし,海浜植物の生存を危うくしている。海浜植生の衰退は飛砂現象にも影響を及ぼすほか,自転車道など人工構造物への埋設害をもたらす。自然海岸の減少はウミガメやコアジサシなどの産卵環境の劣化をもたらし,結果として海岸環境の生物多様性の劣化をもたらしている。最近では,前述した海岸林の砂浜への拡大も本来の砂浜の生態系を劣化する一因になっている可能性も指摘されている。<BR>1999 年(平成11 年)には海岸法が改正され, 管理の目標が「防護」という視点に,「利用」と「環境」が追加された。「防護」や「利用」と調和を図りながら「環境」に配慮した海岸環境の在り様とはどのようなものであろうか?<BR>今回の特集「海岸環境と緑化工」は,上述した海岸を取り巻く様々な問題に対して,「緑化工」という視点からどのような対応ができるのかということを考えたいと思い企画した。最初に,清野聡子氏から「里海としての海岸環境の現状と課題―緑化工学への期待」という題で緑化工学への期待を大胆にご執筆いただいた。次に,岡浩平氏からは「海岸環境と生物多様性―海浜植物の保全・復元を事例に―」というテーマで,主に海浜植生の成帯構造と海浜植物の絶滅の危機要因,海浜植生の保全・復元対策について,野口英昭氏からは「遠州灘海岸における防潮堤の緑化試験」というテーマで,最前線の防潮堤の緑化事例をご紹介いただいた。河合英二氏からは,海岸林がどのように造成され,どのような機能を発揮してきたのかを,「海岸環境と海岸林」としてとりまとめて解説いただいた。最後に,田中賢治氏からは,松枯れ後の海岸林内で発生したマツの実生の分布と大量発生の要因と天然更新の可能性を「海岸林の天然更新への挑戦」というテーマで新しい試みをご紹介いただいた。厚く御礼申し上げる。<BR>本特集を通して,読者の皆様には,現在の海岸環境が置かれている状況をご理解いただき,ぜひ緑化工学会として貢献できる取り組みを一緒に考えていただきたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205082746752
  • NII論文ID
    130000823378
  • DOI
    10.7211/jjsrt.35.497
  • ISSN
    18843670
    09167439
  • データソース種別
    • JaLC
    • Crossref
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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