『冬物語』とイデオロギー

書誌事項

タイトル別名
  • The Winter's Tale and Ideology

抄録

シェイクスピアのロマンス劇が演じられた劇場がいかにジェイムズ朝絶対君主制のイデオロギー装置として機能していたか, 『冬物語』を議論の中心に据えて論じてみた. この劇では家父長的国王を戴くシシリアの君主政体が危機を克服していっそう強化され, その強化されたシステムの中で人々は幸福を得るプロセスが描かれるのであるが, 劇のアクションはアポロの神託通りに進行する. 劇は, 歴史的偶然にすぎないはずの君主制・家父長制を正当かつ自然的, 不変・永続的として表わそうとしている. この, いうなれば一種の神話生成に携わる劇の上演は, ジェイムズ一世という家父長的国王の統治する階層社会の秩序の維持・再生産に積極的に係わるイデオロギー行為であっただろう. 劇中かなりヴィヴィッドに描かれている破壊行為-とりわけレオンティーズの暴虐-は王権に対する疑念を惹起する可能性がないではないが, 破壊のモチーフはあくまでも君主制を肯定するコンテクストの中で展開されていて, 劇のイデオロギー効果を高めこそすれ損なうことはない.

収録刊行物

  • Journal of UOEH

    Journal of UOEH 10 (2), 219-225, 1988

    学校法人 産業医科大学

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