情報化に伴う日本の流通システムの空間的再編(<英文特集>1990年代における日本の経済的地域構造の変貌)

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  • Spatial Restructuring of Distribution Systems Incidental to Informatization in Japan(<Special Issue>Spatial Reorganization of the Japanese Economy In the 1990s)
  • Spatial Restructuring of Distribution Systems Incidental to Informatization in Japan

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抄録

情報化の進展は,製造業を含む流通システム全体に大きな影響を与えた.その具体的な内容として,次の3点を指摘することができる.第1は,消費財流通における「不確実性」の軽減である.消費財流通は,市場のニーズを予測し,一定の在庫を準備することで成立する.この点に関して情報化は,消費と生産のタイムラグを大幅に縮小することで,需要予測の精度を飛躍的に向上させ,市場の不確実性による過剰投資や在庫リスクを軽減した.第2は,OA化や物流システムにおけるFA化を通じたハードメリットの創出である.業務における省力化,省スペース化,業務時間の短縮などは,直接的あるいは間接的に,流通システム全体のコスト削減に寄与した.第3は,データベース化された情報を戦略的に活用することによるソフトメリットの創出である.こうした変化は,アドホックな取引情報に過ぎなかったPOSデータを,戦略性の高い情報資源へと進化させた.流通システムの情報化は,消費の動向をデータとして把握し,これに産業システムを適合させる戦略を加速させた.その過程で,必然的に,データの起点となるチェーンストアヘのパワーシフトが進行した.流通チャネルの主導権を得たチェーンストアは,自らの経営効率を高めると同時に,地域市場への浸透を深める政策を立案し,卸売業やメーカーをその戦略に組み込もうとした.たとえば,多頻度小ロット配送化は前者を,また,商圏への適応や多ブランド化は後者を代表する政策といえる.こうした政策は,在庫や配送費用など,流通システムの中で必然的に発生するリスクやコストを,小売業から卸売業・メーカーに転嫁することを意味している.このことは,ブランドのライフサイクルを短縮させ,多品種小量生産の引き金を引くと同時に,大量消費を前提とした大量生産体制という高度経済成長期の枠組みそのものを変化させる原因ともなった.小売業,とりわけチェーンストアヘのパワーシフトと,大量生産・大量消費体制の終焉は,メーカーの生産・出荷体制を変化させている.まず,多品種生産を維持するために,メーカーは生産拠点の集中化を進めている.その理由は1製品あたりの生産量が製品数の増加と反比例して減少するため,生産のスケールメリットを維持するために,各工場で集中的に生産した製品を全国に出荷する体制が不可欠だからである.こうした生産体制の変化は,これまで消費地立地型工業の典型とされてきたビール工業でも確認されている.このことは,共同物流やサプライチェーンマネジメントの導入など,増大する物流コストを庄縮する流通システムの再編に繋がっている.また,営業活動でも,戦略性が高いチェーンストアとの商談を,地方の支店・営業所から本社など上位組織に移管するなど,企業組織内部の再編も進んでいる.一方,小売業とメーカーとをつなぐ卸売業では,情報化の進展とともに急速な上位集中化が進行している.最後に,情報化を通じた流通システムヘの影響は,流通システム内部に留まらず,都市の機能や地域経済のあり方にも変化を及ぼしている.例えば,メーカーの支店・営業所や卸売業の販売額は,地方都市における重要な経済基盤である.それゆえ,メーカーの支店・営業所が本部に統合され,また卸売業の急速な上位集中化が進むことは,地方都市の弱体化に直結し,都市の階層構造や都市間競争のあり方にも影響を与えるであろう.

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