空氣中に於ける火花放電の理論
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- 熊谷 三郎
- Ryojun College of Engineering
書誌事項
- タイトル別名
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- Theory of Spark Discharge in Air
説明
電子及び(+)イオンのイオン化係數の吟味より出發して火花放電の理論を考察した。<br>常氣壓下の放電に於いては衝撃電壓の場合は勿論,static又は極めて緩かに變化する電壓に對しても(+)イオンの射突イオン化作用は棄却さるべきで,到底之を火花完成への一主因として承認することは出來ない。<br>結局,常温常壓下の火花放電に於いては,電子のみ射突イオン化を行ひ,(+)イオンは空間電荷として火花の完成へ寄與し,自續放電に必要なる電子の補給は光電効果及びSchottky効果により(-)極より放出さる。<br>かくて電壓波形,電極配置の如何に關せず,又,空間,沿面何れの放電にるを問はず總べて同一基礎理論の下に統一さるべきことを述べた。<br>筆者の計算結果及び西,Schumann兩教授の實驗結果を相互に比較することにより放電開始電壓と火花電壓とが一致する如き場合に於いても空間電荷が如何に火花電壓へ著しい効果を及ぼすかを數量的に明示した。<br>低氣壓に於ける火花放電ではTownsend流の理論がよく實際と合ひ,非對稱電界に於ける極性効果をもよく説明する事が出來る。然しTownsend一派の説く如く(+)イオンの作用を單に射突イオン化のみと考へるとイオン化係數より算出した(+)イオンのエネルギーが餘り小さすぎ,彼等の所謂(+)イオンのイオン化係數は單なる射突イオン化作用のみでなく,空間電荷効果及び(-)極よりの電子放出をも包含してゐるものではないかと思はれる。<br>然し,何れにしても,氣壓の相違により(+)イオンの火花放電へ關與する機構及び度合に相當の差異が有るらしく,從つて,低氣壓に於ける火花放電現象の研究結果を常氣壓に於ける火花放電現象の研究へ適用せんとする場合には充分の考慮が必要である。<br>最後にSlepianの熱イオン化説に對する疑點を指摘し,該説の基礎をなすSahaの等式の適用に就いて吟味した。たとへ火花放電により高熱を發生し熱イオン化が起つたとしても,それは火花の進展に伴ふ第二段的のもので火花放電自體は電子の射突イオン化に始まることを述べ,熱イオン化説の主張者が唯一の口實とする數千amp./cm2の強電流密度の火花放電も敢へて熱イオン化説の助を借らずとも電子の射突イオン化作用で充分成就し得ることを明かにした。
収録刊行物
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- 電氣學會雜誌
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電氣學會雜誌 52 (531), 767-774, 1932
一般社団法人 電気学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205143356928
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- NII論文ID
- 130003613720
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- ISSN
- 21876797
- 00202878
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可