環境エンリッチメント(Environmental enrichment)

説明

<p>環境エンリッチメントとは,飼養動物が本来備わった習性に基づく行動を発現するように飼養環境を多様に整えることを指し,動物飼養管理において使われる用語である.例えば,動物園のライオンが檻の中で長時間無目的にウロウロしたり,噛歯類がむやみにケージを齧ったりするなど,いわゆる常同行動という本来みられない行動を発現している環境は不適切な環境とされる.これは,環境刺激(原因)→感覚神経→中枢神経→運動神経→行動(結果)という一連の経路を描いて,環境に原因が求められる.刺激の入力先は生体なので,生体の遺伝要因は結果(行動)に大きく影響する.ただし,味覚を感知するには水溶性物質,香りを感知するには揮発性物質,色を感知するには視覚認識可能な吸収波長を有する光がそれぞれ原因物質になるなど,刺激側にも条件がある.つまり,生体側の条件と刺激側の条件が変動係数として結果を複雑にし,動物行動の解釈に困難さを与えている.動物はどれも棲みかとなる生態系の中で選択された存在であるから,その行動は生態にも動物自身にも生理的に適っていると考えることができる.したがって,その行動が阻害されることは,環境がその動物にとって生態学的に不適切と解釈できる.現実には,自然環境と異なる人為的飼養環境において,どのような環境(刺激)がどのような行動(結果)を誘引し,それが当該動物にとって適切か不適切かを判断することは必ずしも容易でなく,生理学的指標や行動学的指標による証明のため,獣医学,畜産学,動物心理学等の分野で研究がなされている.動物の飼養環境を整えることは動物の健康維持だけでなく,動物福祉(アニマル・ウェルフェアanimal welfare)の面からも重要である.コンパニオン・アニマル(伴侶動物)という言葉が一般化した今日,死なない飼養ではなくペットにとって心身ともに健康で福祉的な飼養が飼養者に求められている.</p>

収録刊行物

  • 知能と情報

    知能と情報 25 (3), 93-93, 2013

    日本知能情報ファジィ学会

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