畜産の発展に伴う地球環境や地域環境への問題を克服する技術

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  • 柴田 正貴
    財団法人畜産環境整備機構 畜産環境技術研究所

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抄録

開発途上国における人口増加と収入増加は畜産物の需要拡大を引き起こす.畜産物の消費増加は動物性タンパク質の摂取量がまだ低い人々に対して栄養の改善をもたらす.さらに畜産は収入を増加させ農家の経済安定性を高める.そのことからDevendraとThomasは畜産は小規模な混合農業において「換金作物」としての役割を持つと述べている.しかしながら,畜産の急速な拡大は地球規模あるいは地域レベルでの環境問題を引き起こしかねない.日本の農業は畜産の発展過程でこのような問題を経験してきた.本報告はこれらの環境問題を取り上げるとともに,日本の経験に基づいて,そのような問題の解決に向けた最近の技術開発を紹介するものである.<BR>食品残さの家畜飼料としての利用<BR>都市化は地域的な栄養蓄積のバランスを崩す.大量の養分が食品残さ等として都市部に蓄積する一方,地方の家畜については低栄養が問題となっている.食品残さの家畜飼料としての利用に関する技術開発は食料自給率の向上に貢献し,バランスの悪い養分蓄積を修正しうる.このことにより畜産をより持続可能なものとしうる.食品残さの飼料化技術は大きく次の三つの方法に分類される : 乾燥,サイレージ,リキッドフィーディング.日本においては食品残さを活用した発酵リキッドフィーディングが注目を浴びている.これは食品関連企業から収集した残さを分別,混合,加熱処理,乳酸菌スタータの添加,培養の過程を経て調製する技術である.発酵リキッド飼料を給与されたブタは通常の配合飼料給与と同等の発育を示すことがわかっている.<BR>家畜排泄物処理技術の発展<BR>畜産物の需要を満たすための開発途上国における急速な畜産の発展は,地域的なそして地球規模の環境問題を引き起こしかねない.これは家畜排泄物負荷と農地の処理能力とのアンバランス,また,不適切な排泄物処理により引き起こされるもので,悪臭,害虫,水質汚染,富栄養化,温室効果ガスの発生などがある.一方,家畜排泄物は貴重な資源でもある.家畜排泄物の再利用は脊薄土壌における農業の持続可能な開発においてカギとなりうる.適切な処理により,窒素,リン,その他のミネラルのような養分に限らず,熱や二酸化炭素のような資源も回収しうる.吸引通気式堆肥化システム,豚舎汚水からのリン酸アンモニアマグネシウムとしてのリン回収,上向流嫌気性汚泥床(UASB)法によるメタン発酵のような日本で開発された家畜排泄物処理に関わる新しい技術を紹介する.<BR>気候変動に関する技術開発<BR>地球温暖化が注目を集めている.農業は温室効果ガスの発生の原因となる一方,気候変動は農業生産に影響を与えている.畜産においても,反芻家畜はメタン発生の主要な原因の一つとも言われている一方で,家畜の生産性は環境温度に影響を受ける.気候変動メッシュデータ(日本)と呼ばれるデータベースと環境温度と食肉生産の関係に関するデータの組み合わせにより,日本における気候変動の地理的差異が肉生産にどのような影響を与えるかの解析事例が示されている.異なる環境と飼養管理下において反芻家畜からのメタン産生について解析がなされるとともに,地球温暖化による家畜生産性の低下を防ぐ技術開発や温室効果ガスの発生を削減するための技術開発がなされている.反芻家畜の生産性を改善することが単位畜産物あたりのメタン産生量を削減する最も効果的な手段であることも示されている.タイ畜産局と日本の国際農林水産業研究センターとの共同研究により,タイにおける肉用牛の養分要求量が求められている.このことは肉用牛飼養の精密化および生産性の改善と,結果として牛肉生産あたりのメタン削減に貢献するものである.

収録刊行物

  • 日本畜産学会報

    日本畜産学会報 80 (4), 470-470, 2009

    公益社団法人 日本畜産学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205191630336
  • NII論文ID
    10029740642
  • NII書誌ID
    AN00195188
  • DOI
    10.2508/chikusan.80.470
  • ISSN
    18808255
    1346907X
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • Crossref
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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