母音/i/,/e/の産生困難が持続した左中心回の皮質・皮質下梗塞による失構音の1例

  • 柴切 圭子
    兵庫県立姫路循環器病センター リハビリテーション科神経心理室
  • 米田 行宏
    兵庫県立姫路循環器病センター 神経内科
  • 山鳥 重
    神戸学院大学人文学部

書誌事項

タイトル別名
  • Impairment of selective vowel articulation in a patient with anarthria following infarction of the left central gyrus and adjacent subcortical area

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抄録

左中心回の皮質・皮質下領域の脳梗塞により失構音を生じ,その回復過程で母音/i/,/e/の産生が子音獲得後にも困難だった症例を報告する。症例は72歳の右利き男性。神経症状では,右側の軽度の球麻痺と上肢に強い右片麻痺,右側感覚障害を呈した。言語機能では,急性期に発語はなく,口型模倣も困難,聴覚理解は良好で筆談が可能。SLTA (標準失語症検査) の呼称課題が筆談で全問正答し失構音に近い症状だったが,文レベルの書字で助詞などの仮名の誤りを若干認めた。構音機能は言語訓練によって改善し,子音は半母音/j/を除いてすべて産生可能になった。母音は/a/,/u/,/o/が産生可能になったが,/i/,/e/は発症2年後でも産生困難が持続していた。しかし,産生可能な音節を組み合わせると2語文の表出が可能になった。情動的場面では,ごくまれに笑い声や掛け声で母音/i/,/e/を含む音節が産生できることがあった。口部顔面失行も持続していた。脳MRIでは,左中心前回の最下部を除く皮質領域,中心前・後回の皮質下に限局した梗塞巣を認め,放線冠にも及んでいた。本例の言語症状は,従来の失構音症例でみられる非一貫性の構音の誤りに加えて,一貫した構音不可能な音節を持つ点が特徴的だった。皮質性の失構音に加えて,運動障害性の構音障害の関与,球麻痺の意図性・自動性の乖離として知られる前弁蓋部症候群 (anterior operculum syndrome) の関与が考えられた。

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参考文献 (28)*注記

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