ウミキセルのホロタイプの再発見とその担名タイプとしての地位の回復

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  • Rediscovery of the Holotype of <i>Laiochochlis sasamorii</i> Kuroda, 1943, and Recovery of Its Name-bearing Type Status
  • Rediscovery of the Holotype of Laiochochlis sasamorii Kuroda, 1943, and Recovery of Its Name-bearing Type Status

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抄録

ウミキセルLaiochochlissasamorii Kuroda, 1943は故笹森亭秀氏が択捉沖から採集した単一標本(ホロタイプ)に基づいて記載された。その後,本種の報告は少なく,特に国内では大山(1951)が北海道渡島半島沖から1個体の死殻を報告したのみで,博物館や主要な個人コレクション中にもほとんど見られなかった。近年,Tsuchida & Sasaki(1998)は北海道南部松前小島沖から6個体の生貝を含む多数の標本を採集し,詳しい形態学的記載を行った。その際に,笹森氏のすべてのコレクションが択捉からの引き揚げの際(1946 年)に失われたことを鑑みて,本名義タクソンの担名タイプも失われたとして,この北海道産の個体の一つをネオタイプに指定した。しかしながら国際動物命名規約(以下,規約)によれば,ネオタイプは「当該名義タクソンを客観的に定義するために担名タイプが必要だと考えられるとき」にのみ指定できるもので,それ以外の指定はすべて無効とされる。さらに,このタクソンのホロタイプは実際には1946年以降も明らかに存在しており,波部(1961)や波部・伊藤(1965)が図示している標本は,図示されたホロタイプと同一個体である。さらにこのホロタイプはその後国立科学博物館のタイプコレクションの中から発見され,Higo et al.(2000)や長谷川(2000)によってホロタイプとして図示されている。このことより,規約75.8条「再発見された以前の担名タイプの地位」に基づき,この失われたとされたホロタイプ(NSMT-Mo 38644)の担名タイプとしての地位を復活させ,ネオタイプ(NSMT-Mo 71070)の地位を正式に破棄する。またこのような規約の条件に合わないネオタイプの指定がコレクションカタログなどの国内の文献において現在でもしばしば見かけられるが,この件を他山の石として注意を喚起したい。

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