羽化水生昆虫が河畔林の鳥類におよぼす影響

  • 村上 正志
    北海道大学北方生物圏フィールド科学センター苫小牧研究林
  • 大島 成生
    (株)環境調査技術研究所 北海道技術事務所
  • 山岸 哲
    財団法人山階鳥類研究所

書誌事項

タイトル別名
  • Effect of Aquatic Insect Emergence on the Bird Community in Riparian Forest
  • ウカ スイセイ コンチュウ ガ カハンリン ノ チョウルイ ニ オヨボス エイキョウ

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抄録

河畔林に生息する鳥は,河川から羽化する水生昆虫を利用し,河川生態系に依存していることが知られている。このような河川から森林へのエネルギーの移動は,森林に生息する鳥類群集に影響すると考えられる。本研究では,静岡県清水町を流れる,柿田川,および,近隣の狩野川を対象として,河川から羽化する水生昆虫の季節消長と,河畔に生息する鳥類の群集との関係を調査した。柿田川は湧水河川であり,流量と水温が通年安定しているのに対し,狩野川の流量は大きく変動し,また,水温も顕著な季節変化を示す。このような両河川の特性の違いが,河川からの羽化水生昆虫の羽化量に影響していた。羽化量は,狩野川と比較して,柿田川においては11月から3月まで継続して多かった。4月以降は両調査河川で羽化量が増加し,両調査地点間で差は見られなかった。柿田川,狩野川は両調査地点において,鳥類の個体数と種数は,水生昆虫の羽化量に対応した変化を示した。4月から10月には,両調査地点でともに鳥類は少なく,また,調査地点間の差は見られなかった。しかし,11月から3月にかけては鳥類の生息個体数,種数は両地点ともに増大し,この期間,柿田川において,個体数で3倍,種数でも約2倍の鳥類が観察された。これらの結果から,柿田川が鳥類の越冬場所として非常に重要であることが示された。しかし同時に,夏の生息個体数が,過去の調査と比較して少なかったことから,夏期,柿田川河畔林は,繁殖地としては十分に機能していないようだった。これは,柿田川の河畔林が孤立した森林であることと関係すると思われる。このような結果は,今後の柿田川の河畔林も含めた保全に対して重要な示唆を与えるものである。

収録刊行物

  • 山階鳥類学雑誌

    山階鳥類学雑誌 38 (2), 80-89, 2007

    公益財団法人 山階鳥類研究所

参考文献 (18)*注記

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