旧北区東部のネグロフトメイガと同属の1新種の記載

書誌事項

タイトル別名
  • On the eastern palaearctic Stericta atribasalis Hampson, with description of a new species (Pyralidae, Epipaschiinae)
  • 旧北区東部のネグロフトメイガと同属の1新種の記載〔英文〕
  • キュウ キタク トウブ ノ ネグロフトメイガ ト ドウゾク ノ 1 シンシュ

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抄録

日本で"ネグロフトメイガ"と呼ばれている個体群の中に2種が混じっていることは,数年前に小木広行氏によって発見され,これらについての調査を筆者らに委ねられていた.日本のネグロフトメイガには,長い間Lepidogma atribasalis (Hampson)の名があてられていた.この種はアムール地方及びアスコルド島産の複数の標本に基づき, Stericta属の1種として記載されたもので,六浦(1957)によってLepidogma属に移されていた.ベルリンにあるタイプ標本のうちの雌と,ロンドンにある同じラベルの付いた雄を検討した結果,これらのタイプ標本は六浦(1957)や井上(1959,1982,1992)がL. atribasalisとしたものと同じ種で,もう一方は新種であることが判明した.しかし, Stericta atribasalis Hampson, 1900は,オーストラリアのS. atribasalis Warren, 1895に先取りされたホモニムなので,本文で新名を与えるとともに, 1新種の記載を行った.またこれらの2種は,南ヨーロッパや中東のLepidogmaと同属でなく,広義のStericta属に入れるべきことも判明した.記載にあたり,その端緒となる知見を得られた小木広行氏のご慧眼に対して深く敬意を表する.また小木氏をはじめ,土井信夫,猪子龍夫,岩崎史郎,亀田 満,小松利民,間野隆裕,大倉 慎,清野昭夫,田中政行,梅津一史,山中 浩,山本光人の各氏からも,多くの標本や情報を提供していただいた.著者の一人佐々木は,望月 淳,根本圭介,吉松慎一の各氏から文献参照の上でご協力をいただいた.上記の方々に対して心から感謝の意を表する. Stericta kogii Inoue & Sasakiネグロフトメイガ 六浦(1957),井上(1959,1982)がLepidogma atribasalisとして図説したのはこの種である.外横線は前縁部で黒色点で表わされ,脈M_1かRsからCuAまでは外方に大きくふくらみ,以後外縁に平行するが,後半は黒色帯と重なって不明瞭.前翅長:♂7.5-8.5mm,♀7.7-9.0mm.♂交尾器. Valvaは幅広くcostaはそれほど湾曲しない;harpeは棒状で, valvaの基部から1/3付近のところから突出する;juxtaの上部は2叉し,骨化して顕著な棒状となり多数の鋭く短い突起を伴う;aedeagusは細長く,長さは中央部の幅の約10倍;cornutusは1本の細長い針状物.♀交尾器. Colliculumは骨化し大きな筒状, ductus bursaeとの接続部は強く括れる;ductus bursaeはごく細く,始めは膜状であるが長さの半分ぐらいから骨化し,強く曲がってcorpus bursaeに達する;signaは多数の骨片が集まった2個の円形紋.本種の雌雄交尾器は,井上(1992)によってすでに示されている.また,本種の食草として,中村(1970,蛾類通信63:45)は,東京都初沢山でオニグルミにっいていた幼虫から成虫を得たことを報告しているが,これが2種のうちどちらの方かは今後確かめる必要がある. Stericta flavopuncta Inoue & Sasakiミドリネグロフトメイガ(新称)前翅長:♂7.5-8.6mm,♀7.5-9.6 mm.外見上は前種とよく似ていて,時には区別が困難であるが,雌雄交尾器の違いは顕著である.前翅外側1/3を占める黒色帯はより狭く,淡いことが多い.したがって外横線はより明瞭,外方へのふくらみは少ない.外横線外側の淡色帯は前種に比べて明瞭,この淡色帯はしばしば後角付近で黄白紋を表わす.♂交尾器.Harpeは前種より長くvalvaの中央付近から突出する;juxtaの上半は2叉し剣状の突起を形成し,前種のような短い鋸歯状の突起物を欠く;aedeagusはより太く,長さはvalvaの長さとほぼ同じ;cornutiは10本ほどの短い刺状物の集まり.♀交尾器.Colliculumは骨化し大きなカップ状,いったん狭まったのち再び嚢状に膨らむ;ductus bursaeは膜状,前種に比べてより太く短い,微細な骨片を散布し次第に太くなりcorpus bursaeに至る.両種ともにロシア沿海州と日本(北海道,本州)に分布していることは,筆者らによって確かめられたが,四国,九州,奄美大島の記録にっいては,実物を再検討しなければ何れの種なのか決められない.おそらく本邦南部にはネグロフトメイガだけが生息しているものと推定される.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 45 (4), 245-250, 1995

    日本鱗翅学会

参考文献 (13)*注記

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