枯葉を食するベニコヤガ亜科4種のシェルター形成

書誌事項

タイトル別名
  • Pupal habits of four species of the subfamily Eublemninae feeding on dead leaves (Lepidoptera, Noctuidae)
  • Pupal habits of four species of the subfamily Eublemminae feeding on dead leaves (Lepidoptera, Noctuidae) : An analysis of pupal shelters made by larvae of Oruza yoshinoensis, Arasada ornata, Oruza glaucotorna and other close species
  • -ヨシノクルマコヤガ,ヤマトコヤガ,モンシロクルマコヤガの幼虫が形成する蛹化シェルターの分析-
  • ― An analysis of pupal shelters made by larvae of <i>Oruza yoshinoensis, Arasada ornata, Oruza glaucotorna</i> and other close species―

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抄録

<p>ベニコヤガ亜科 Eublemminae のヨシノクルマコヤガ Oruza yoshinoensis, モンシロクルマコヤガ O. glaucotorna, ヤマトコヤガ Arasada ornata,ツマトビコヤガ Autoba tristalis の形態やシェルター形成の違いを調べた.これら4種の幼虫は,シイやカシの倒木の枝に残されている枯葉を食し,その葉を利用して蛹化のためのシェルターをつくる.A. tristalis 以外の3 種の幼虫は枯葉の2箇所に切れ込みを入れて折りたたむように葉を重ね,両側に蓋をしてシェルターを完成させる.</p><p>岐阜市金華山およびその周辺で4 種の蛹化時に形成されたシェルターを探すとともに,幼虫を採集した.O. yoshinoensis, O. glaucotorna,A. ornata の老熟幼虫は,斑紋がよく似ている.A. ornata には第2腹節背面に1対の赤い半球状模様があり,O. yoshinoensisO. glaucotorna では認められない. O. glaucotorna の斑紋は,2列の背線が各節後部で広がることで区別される.A. tristalis は,斑紋が成長段階で変化して前3 種との区別は容易である.飼育容器には枝についたままの食痕の無いさまざまな大きさのツブラジイ枯葉を20枚ほど与えてシェルターを造らせた.O. glaucotorna は,サカキの枯葉から多くの幼虫が得られたので,サカキの枯葉も与えた.これらの種のシェルター形成の違いを調べるため,シェルターを造った葉の葉身長,葉の表裏,葉上の位置,切り込みを入れて折り返す方向,羽化後のシェルターからの脱出方向などを調べた.枯葉は葉柄が上になっているが,葉の位置,方向の記録は葉端を上とした.一部のものはシェルターを開き,蛹あるいは羽化後の蛹殻より種および性と脱出方向を確認した.羽化後および寄生された蛹殻などの同定は,尾突起の形態で行った.</p><p>寄生率は,採取された未成熟幼虫の多くが羽化したことから,成熟幼虫および蛹期に高くなると推定された.野外で得た O. yoshinoensis のシェルターは,一部が葉の裏に作られていたが,飼育した同種幼虫のシェルターは,裏面に作られるものが多くなった. A. ornataO. glaucotorna の飼育個体は裏面に作るものがさらに多く, O. yoshinoensis との違いが認められた.シェルターを造る葉の位置,折り曲げる方向,成虫の脱出方向は,3種とも共通しており,種ごとの違いを見いだすことができなかった.また,いずれの種においても折り曲げる方向と葉の表裏との関係に有意な差は認められなかった.シェルター長と葉身長との関係は,3種に違いが見られた.O. yoshinoensis は,室内でシェルターを造ったものも野外で得られたものもともに低い相関があり,A. ornata は低い負の相関があり,O. glaucotorna は低い相関があった.シェルター長と成虫開張との関係は, 3 種とも相関があり, 中でも A. ornata には高い相関があった.また,野外で得られたシェルターは,ほとんど食痕のない葉に造られており,成熟幼虫は新たな葉に移動してシェルターを作成すると考えられた.羽化個体の多くが葉の下方向から脱出することは,葉柄が上になる倒木に残った枯葉においては上に向かうことになり,翅の展開や飛翔に有利になると思われた.O. glaucotorna の幼虫は,枯れると葉が縦方向裏側に丸まってしまうサカキの中におり,枯葉の構造上,葉を切ってシェルターを造る行動は裏側で可能となる.しかし,ツブラジイの枯葉を与えるとその表側にシェルターを造るものがいた.O. glaucotorna は,シェルターを形成するとき他の樹木の枯葉に移動するものがあるのかも知れない.</p><p>マエヘリクルマコヤガ Oruza mira は,蛹化時に枯葉を切って特徴的な巣を造ることが明らかにされた(山本, 1965, 小木2011).O. yoshinoensis,A. ornata,O. glaucotorna の 3 種は,O. mira と同様の習性を有する.また,O. mira 幼虫は, O. yoshinoensisA. ornata によく似た体型や斑紋であった.幼虫の形態や習性をみる限りこれら 4 種は,近い種であると考えられた.O. yoshinoensis は,Corgatha として記載された種であったが,杉ほか(1982) によってOruza に移された.A. ornata は,Hampton の検索表に従って分類されたが,なお検討の余地があるとされた(杉ほか,1982).これまでの分類は成虫の形態で行われている(Holloway 2009).交尾器をみるとA. ornata は他の 2 種よりもよりキチン化が発達し,雄交尾器のバルバが左右非対称で開きにくいなど異なる点が多いように思われた.Oruza 属の幼虫形態は,O. mira の記載が唯一のようである(山本ほか1965,小木 2011).Holloway(2009)は,Arasada albicosta の幼虫が蛹化時にヤシ科(Palmae)Calamus 属の葉をシリンダー状に切り取ってその中で蛹になることを図示し,よく似た習性が Cerynea punctilinealisMetaemene などでも見られることを指摘している.シェルターを造る習性から進化の道筋を2 通り考えた.すなわち,A はシェルターを造る祖先種があり,形態分化が起きて2つの属に分かれた.その後,分岐したそれぞれにシェルター形成を維持する集団と消失した集団が残った.B は先に形態分化が起こり,その中で収斂的に共通のシェルターを形成する集団が生じた.とするものである.シェルター構造の複雑さから,B のパターンは起こりそうではない.また,A のパターンでは,シェルター形成を消失する途中段階のものが見つかってもよさそうである.O. yoshinoensis,A. ornata,O. glaucotorna, O. mira の 4 種は,はじめからシェルターを造るグループであったのかも知れない.</p>

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 67 (3-4), 89-98, 2016

    日本鱗翅学会

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