日本初記録のEphestiopsis vishnuアカウキクサマダラメイガ(鱗翅目,メイガ科) : 外来アゾラの生物的防除素材の一候補

  • 吉安 裕
    Entomological Laboratory, Graduate School of Life and Environmental Sciences, Osaka Prefecture University

書誌事項

タイトル別名
  • New record of Ephestiopsis vishnu (Lepidoptera, Pyralidae) from Japan, a candidate to be a biological control agent for exotic Azolla species

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抄録

沖縄県西表島においてアカウキクサAzolla imbricata (Roxb. ex Griff.) Nakaiを摂食していたEphestiopsis vishnu Roesler & Kuppers, 1981アカウキクサマダラメイガ(新称)を日本から初めて記録し,日本産個体をもとに再記載した.成虫.前翅長:♂5.3-5.4mm,♀6.0mm.頭部の前額は丸く,平滑で黒褐色.ラビアル・パルプスは細く,淡褐色に黒褐色を混ぜ,湾曲して上向し,ほぼ頭頂部の高さに達する.触角は微毛状;♂では側方に圧縮され,やや幅広となる;♀では♂より細い.♂の脚は短く,灰褐色;中脚は後脚より長い;♀では♂より長く,細い.前翅は細く,灰褐色.内横線は不明瞭ながら,斜め外方に伸び,その内側に白色帯がある;中室端の前端と後端には輪郭が不鮮明な黒点をもつ;外横線とその外側の白帯は湾曲する.♀では前横線内側の前縁部及び中央部の前縁付近の白色帯がやや目立つ.後翅は♂♀ともに一様に前翅よりも淡い灰褐色,翅脈部分が濃い褐色となる.♂交尾器:テグメンは背方からみて幅広く中央部は広く膜質;フェネストルーラは発達する;ビンクルムは幅広で長い;サックスは未発達;ウンクスは幅広く先端で二叉する;バルバは長く,先端の約1/2は細まり,内面には多数の刺毛を有する;グナトスは細く鎌状の顕著な腹中線突起をもつ;ユクスタは先端部に数本の刺毛を有する指状の側部突起を有し,腹面からみてU字状を呈する;挿入器は短く太く,背方部は膜質となり,弱い硬化部からなるコルヌツスをもつ.なお,本種とEphestiopsis属のタイプ種であるE. oenobarella (Meyrick, 1879)とは脈相で類似するが,♂交尾器では顕著に異なることから,将来本種の所属については検討を要する.本種は水生ではなく,アゾラ植物体の上葉部に生息する.幼虫は絹糸でアゾラの上葉の間に粗いトンネル状の巣をつくり,中にいて巣を延長しながら周辺の上葉を摂食する.老熟すると周辺の寄主葉を集め,絹糸で蛹室を紡ぎ中で蛹化する.近年,日本在来のアカウキクサ属Azollaの2種,アカウキクサA. imbricataとオオアカウキクサA. japonicaは絶滅が危惧され,環境省のレッドリスト(絶滅危惧IB類(EX),環境省,2012)に指定されている.一方,外国産の本属の種が日本各地に侵入し,在来種の駆逐や在来種との交雑が懸念されるほか,水田,池,湖等の止水域で大量に繁殖し,他の水生植物に悪影響を与えたり,水路障害となるなどで問題となっている.とくに,アメリカオオアカウキクサA. cristataは2005年に環境省の特定外来生物に指定されている.近年,アメリカオオアカウキクサとオオアカウキクサとの雑種個体群であるアイオオアカウキクサの分布拡大も問題となっている.日本にはAzolla属植物を寄主とする鱗翅類としてツトガ科ミズメイガ亜科のヒメマダラミズメイガElophila turbataとソトキマダラミズメイガEl. nigralbalisが分布するが,これらの種は他のウキクサ類も摂食し広食性であることが知られる.一方,アカウキクサマダラメイガは現在までの知見ではAzolla属の種だけを寄主とすることから,在来種に配慮しなければならないが,沖縄に外来アゾラが侵入した際の生物的防除素材の有効な一候補になりえよう.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 66 (2), 77-81, 2015

    日本鱗翅学会

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