Pieris (napi) nesisの分類上の位置づけ

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タイトル別名
  • Taxonomic status of Pieris (napi) nesis Fruhstorfer, 1909 (Lepidoptera, Pieridae)

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説明

Pieris (napi) nesisは,研究者によって北海道産のエゾスジグロシロチョウとして扱われたり,本州産のヤマトスジグロシロチョウとして扱われたりまちまちである.さらにTadokoro(2015)はWarren(1961)の発香鱗研究の結果から「Pieris (napi) nesisが実はナピ種群ではなく北海道産のスジグロシロチョウではないか」と推論した.著者はそれらを検証する為にロンドン自然史博物館(旧:大英博物館)に保管されているP. (napi) nesisのレクトタイプ標本[Eitschberger(1983)により担名タイプである「ホロタイプ」(レクトタイプの誤用と解釈できる)に指定された♂個体で,著者はこの処置によりレクトタイプ指定が正しく行われたと考える]の発香鱗を検鏡することにした.ナピ種とスジグロシロチョウの発香鱗は簡単に区別できる.著者の要望を受けてP. (napi) nesisのレクトタイプ標本は「兵庫県立人と自然の博物館:兵庫県立大学自然・環境科学研究所」に貸し出された.著者が検鏡した結果,発香鱗の形態に以下の特徴が見られた:1.香嚢のサイズはスジグロシロチョウのように大きくなく,ナピ種群のものである.2.ラミナ(発香鱗から香嚢を除いた部分)は全体的に幅広く第一化(春型)である事が推察される.3.ラミナの形状では,頸部の太さが下にいくに従って徐々に広がり肩が張っていない.西海(2010)の研究結果では本州産のヤマトスジグロシロチョウの特徴と一致する.なお,西海(2010)の研究結果は夏型個体を対象としているが,著者の知見では春型個体の発香鱗においても同様な傾向が見られる.一方,田所(2015)によると,原記載文に示されたP. (napi) nesisの斑紋はスジグロシロチョウ若しくは本州産ヤマトスジグロシロチョウに合致し,正常型の北海道産のナピ種には合致しないことが判っている.以上の考察から,P. napi nesisはTadokoro(2015)が推論した北海道産のスジグロシロチョウではなく,Eitschberger(1984)が分類した通り本州産のヤマトスジグロシロチョウであることが示唆された.それにより,これまで曖昧であった以下の点が明確になった.1.P. napi nesisの基産地は札幌ではなく本州であった.2.Warren(1961)が検鏡したP. napi nesisはレクトタイプ標本ではなかった.3.タイプ標本のラベル[megamera]は誤同定,[andr. bm 37 S. R. B.]はWarren(1961)と無関係.なお,Pieris japonica Shirozu,1952は記載年によりPieris (napi) nesisのシノニムとなって姿を消す.本州産のナピ種(ヤマトスジグロシロチョウ)を示す学名は,今後Pieris nesisを使用するのが適当である.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 66 (3-4), 104-108, 2015

    日本鱗翅学会

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