東アジアおよび東南アジア産のTargalla delatrix (Euteliidae:フサヤガ科) とその近縁種の分類学的研究

  • 綿引 大祐
    Graduate School of Agriculture, Tokyo University of Agriculture:(Present office)Japan Wildlife Research Center
  • 吉松 慎一
    Nationa lInstitu ftoerAgro-Enyironmenta Slciences ,Kannondai

書誌事項

タイトル別名
  • Taxonomic study of Targalla delatrix (Guenee) and its close relatives from East and Southeast Asia with description of a new species (Lepidoptera: Euteliidae)

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抄録

Targalla属は世界で20種1亜種が知られ,2つのグループとその他未整理の種に分けられており,インドからオーストラリア一円の亜熱帯および熱帯にかけて分布する(Holloway, 1985; Poole, 1989).寄主植物はフトモモ科とセンダン科で,タイにおいては本属の一種であるT. delatrixがフトモモやサントールといった果実の害虫として知られている(Kuroko and Lewvanich, 1993; Robinson et al., 2001).ボルネオ島を中心としたアジア産の標本に基づいた分類学的な研究はHolloway(1985)により実施されたが,日本を含む中国やベトナム,ラオス,タイ,台湾といった他の東アジアおよび東南アジアにおいては分類学的研究が未だ不十分であった.日本産種においても,いわゆるネグロフサヤガには2種が混同されたままとなっていた(岸田,2011).そこで筆者らは,アジアの多数産地から得られた標本に基づいて,T. delatrixとその近縁種(Holloway(1985)の言う1グループ)の分類学的研究を行った.その結果,これまで本グループは8種1亜種とされてきたが,1未記載種を認めるとともに,1亜種の種への格上げと,1種の復活を認め,11種に整理することができた.ただし,今回は東アジアおよび東南アジア産の種を主に扱ったことから,これらの内,南アジアのスリランカおよびインド特産の3種,T. bifacies, T. ludatrix, T. repletaについては,参考までにロンドン自然史博物館に所蔵されているタイプ標本の写真を示すに留めた.また,雄交尾器のvesicaを反転させ,これまで本属においてあまり検討されてこなかったvesicaとvesica上の刺であるcornutiを観察したところ,これらは種の識別に有効な形質であることが判明した.これらの形態学的な検討に加え,主にベトナム(2012年6月)とラオス(2013年5-6月)の調査で我々自ら採集した標本ならびにGenBank,BOLDに登録済みのオーストラリア,スマトラ,香港の塩基配列データと成虫画像データを用いて,外見での識別が比較的難しい東アジアおよび東南アジア産7種のmtDNA(COI)バーコード領域に基づく分子分類学的な検討も行った.その結果,それぞれの種毎にグレードを形成し,標準的なDNAバーコーディングを用いた同定が本グループにおいても有効であることが示された.なお,日本産蛾類標準図鑑II(岸田,2011)によるとTargalla属はヤガ科フサヤガ亜科に含められているが,最近の分子生物学的な研究により,本亜科を独立の科として扱うことが提唱されており(Zahiri et al., 2011),今回はその扱いに従い,フサヤガ科とした.以下に日本に生息する2種の簡単な説明を示す.Targalla delatrix(Guenee, 1852)ネグロフサヤガ 前翅長:♂11.4-13.4mm,♀12.0-14.4mm.前翅は全体的に茶褐色で,かなり黒化する個体も多い.本グループの中では最も小型で,各横線が不明瞭.他種で見られるような外横線上端の半円形の線が,本種ではほとんど現れないことが特徴.分布:インド〜オーストラリア地域の熱帯・亜熱帯地域.ラパ島やハワイ島といった太平洋の島嶼においても記録がある広域分布種.日本国内においては,沖縄(沖縄本島・西表島)の標本を筆者らは確認している.Targalla silvicola Watabiki & Yoshimatsu, sp. nov.マルモンネグロフサヤガ(新称) 前翅長:♂12.9-15.3mm,♀13.4-14.9mm.前翅の色調および斑紋は変異に富む.日本には前種と本種のTargalla属2種が分布しているが,本種は前種と比較して大型で,外横線上端の半円形の線が明瞭に現れることによって識別できる.日本産蛾類標準図鑑II(岸田,2011)でネグロフサヤガT. delatrixとして示されている個体のうち,図版2-062-34の個体は本種である.また,日本産蛾類大図鑑(杉,1982)でネグロフサヤガPhlegetonia delatrixとして示されている個体のうち,Plate 193, Fig. 9(屋久島産)の個体は本種で,Fig. 10(ボルネオ島産)はHolloway(1985)が述べているようにT. palliatrixである.なお,T. palliatrixは日本には産しない.分布:中国・ラオス・ベトナム・台湾・日本.日本においては,本州(石川県)・九州(福岡県・屋久島・奄美大島)・沖縄本島の標本を筆者らは確認した.屋久島で比較的多くの個体が得られている.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 65 (4), 158-178, 2014

    日本鱗翅学会

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