Elachista属の海浜性の新種Elachista kobomugi sp.nov.およびその日本産近縁種(鱗翅目,クサモグリガ科)

  • 杉島 一広
    Laboratory of Systematic Entomology, Faculty of Agriculture, Hokkaido University

書誌事項

タイトル別名
  • A new littoral Elachista species, E. kobomugi sp. nov., and its close relatives (Lepidoptera, Elachistidae) from Japan
  • new littoral Elachista species E.kobomugi sp.nov. and its close relatives Lepidoptera Elachistidae from Japan

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説明

極東地方大陸部のクサモグリガ科相はここ10年内に精力的に調査され,例えば現在極東ロシアからは47種のクサモグリガ科が記録されているのに対し,日本からは,Kuroko(1982)およびParenti(1983)によって計15種が知られているにすぎない.しかも,北日本のクサモグリガ科に関する知見は皆無に等しい.今回私が北日本産クサモグリガ科標本を検討したところ,Kaila(1996)が設定したElachista tetragonella種群に属する海浜性の1新種とそれに非常に近縁な日本新記録種3種が見いだされた.それぞれの特徴は以下のとおりである.Elachista utonella Frey(Figs 1-4,11,12)ヤチチャマダラクサモグリガ(新称)道南を除く北海道各地から得られている.多くの個体では前翅は褐色で,前縁の3/4弱付近,後角付近,翅端付近および折り目上に乳白色の紋を持ち,前縁の乳白色紋の内側と折り目中央には黒褐色斑を持つ(Figs 1,2).しかし,時として極端に淡色化した個体も見られる(Figs 3,4).体色の濃淡における個体変異が極めて大きいため,外観による本種の確認は時に困難.本種は♂ならば交尾器(Fig.11)のvalvaの形状によって容易に識別される.♀では交尾器(Fig.12)のpapilla analisとapophysesの相対長やantrumの形状により確認されることが多い.年1化らしく,日本では初夏にスゲ属(Carex spp.)とアブラガヤ(Scirpus wichurae)の葉から幼虫が得られている.ヨーロッパ各地に広く分布し(Traugott-Olsen and Nielsen,1997),最近沿海州南部(ロシア)からも記録された(Sruoga,1995).前述のカヤツリグサ科植物のほかにイグサ科のイグサ属(Juncus gerardi)およびイネ科のウシノケグサ属(Festuca sp.)も食草として報告されている(Parenti and Varalda,1994).Elachista bipunctella(Sinev and Sruoga)(Figs 5,13)フタテンシロクサモグリガ(新称)苫小牧市東部の湿地から1♂のみ得られた.前翅の折り目中央と中室末端付近の黒褐色斑等を除いて全身ほぼ一様に白色.本種は♂交尾器(Fig.13)の形状から判断して前述のヤチチャマダラクサモグリガにもっとも近縁と考えられるが,valva腹側の縁がより明瞭に屈曲し,おおよそ120°をなす事により区別される.最近沿海州南部(ロシア)から記載された種で(Sinev and Sruoga,1995),幼虫の食草は不明.年1化らしい.Elachsita albidella Nylander(Figs 6,7,14,15)シロクサモグリガ(新称)南八甲田の高層湿原から得られた.前翅の地色は白色で,銅褐色の鱗片が特に先端側半分に散在し,折り目中央と中室末端付近には黒褐色斑が現れる(Figs 5,6).本種は♂ならば交尾器(Fig.14)のvalvaの形状によって容易に識別される.♀では交尾器(Fig.15)のpapilla analisとapophysesの相対長やantrumの形状により識別できることが多い.年1化らしく,日本ではカヤツリグサ科のワタスゲ(Eriophorum vaginatum)の葉から幼虫が得られている.ヨーロッパではよく知られた種で,ワタスゲのほかに同じくカヤツリグサ科のスゲ属(Carex spp.),ハリイ属(Eleocharis palustris),ホタルイ属(Scirpus caespitosus)およびイネ科のノガリヤス属(Calamagrostis arundinacea),コメススキ属(Deschampsia spp.),コメガヤ属(Melica nutans),ナガハグサ属(Poa palustris)も食草として報告されている(Parenti and Varalda,1994).Elachsita kobomugi sp.nov.(Figs 8-10,16,17)コウボウムギクサモグリガ(新称)鳥取県から北海道の主に日本海側の海岸から得られた.全身一様に白色で,前翅は折り目中央と中室末端付近に黒褐色斑を持ち,また先端側に銅褐色の鱗片が散在する(Figs 8-10).本種の色彩斑紋は上述の3種に酷似し,交尾器の検討によってのみ確実に識別される.♂ではvalvaの形状(Fig.16),♀ではcolliculumとantrumの相対長(Fig.17)が特に有効である.ただし,♂であれば腹部まで白色化することによって類似した種からある程度区別される.年1化らしく,幼虫は春から初夏にかけてコウボウムギ(Carex kobomugi),エゾノコウボウムギ(C.macrocephala),時にコウボウシバ(C.pumila)やチャシバスゲ(C.microtricha)の葉から得られている.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 50 (4), 247-263, 1999

    日本鱗翅学会

参考文献 (17)*注記

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