2015年の教育改革案・調査報告等

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  • 2015ネン ノ キョウイク カイカクアン ・ チョウサ ホウコク トウ

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抄録

 少子高齢化と人口減少化社会の到来が、政策文書における社会背景として枕詞のように用いられて久しい。2014年末には、地方から日本を創生する「長期ビジョン」「総合戦略」が閣議決定され、まち・ひと・しごとの創生と好循環の確立が目指された。そして、戦後70年を迎えた2015年は、国会の施政方針演説において「戦後以来の大改革」として位置づけられ、経済再生、東日本大震災からの復興、社会保障改革、教育再生、地方創生、女性活躍、外交・安全保障の諸課題への決意が安倍首相から示された。このうち、9月に成立した安全保障関連法をめぐっては、反対する声明の発表やデモ等の抗議活動が広く展開されたことが象徴的である。また、6月の公職選挙法改正により、選挙権年齢が18歳からとされたことも大きな変化であり、高校生の政治活動や主権者教育の動向が注目される。<br> 2012年12月の安倍政権の発足以降、日本の教育改革はおおむね、教育再生実行本部および教育再生実行会議が示す路線で進められてきた。2015年もその方向性は引き継がれてきているが、第五次までが、早急な対処・解決が求められる課題への提言であったことに対して、3月の第六次提言以降は、より長期的なスパンを見据えた第2段階の検討課題への改革案を示すものとして、地方創生の動向とも関連付けた教育の在り方を取り上げている。たとえば、全員参加型社会の実現、教育がエンジンとなっての地方創生(第六次提言)、情報化とグローバル化の社会に求められる資質・能力育成のためのアクティブ・ラーニングの促進(第七次提言)、必要とされる教育財源の確保(第八次提言)などである。<br> これらと連動して、国立大学には第3期中期目標期間において、タイプ別の機能強化が求められ、その評価に基づくメリハリのある大学運営交付金の配分を実施する方針が示された。さらには、教員養成系を中心とした文系の学部・大学院には組織の見直しや廃止が求められた。今後の社会における大学の位置づけが、初等中等教育改革や地域社会に与える影響は大きなものとなろう。<br> このほか、7月に小中一貫教育制度の導入に係る学校教育法の一部改正がなされたことにより、義務教育学校の創設が可能となった。超党派で検討されていた「多様な学習機会確保法案」は国会への法案提出が見送られたが、夜間中学校の実態調査が話題を集めるなど、公教育制度の枠組み自体を見直す動きは進みつつある。年末の中教審答申にある「チーム学校」の構想や、教職員の力量形成、学校と地域の連携・協働についても、既存の学校の概念を転換させようとする内容が多く含まれている。<br> 4月からは、改正された地方教育行政の組織及び運営に関する法律が施行され、従来の教育長と教育委員長を一本化した新教育長の任命、総合教育会議の実施等、一般行政と教育行政をめぐる制度運用の実態が注目される。国家全体での成長戦略と教育改革において、および、自治体の地方創生と地方教育行政改革において、教育と政治のバランスを調整するシステムをどのように機能させていくのかが問われよう。

収録刊行物

  • 教育学研究

    教育学研究 83 (1), 26-41, 2016

    一般社団法人 日本教育学会

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