介護問題の社会学

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抄録

フェミニスト・エスノグフラフィーという手法により, 要介護高齢者, 重度障害児のケアをめぐる “語り” をよりどころにしながら, 「介護問題」の社会的性格についての9本の論考を収めている。著者の関心は, (1) 高齢者介護をめぐる「家族」内・外の性別秩序の変遷 (2) 「介護問題」を抱えている人たちの “語り” を手がかりとした問題状況の明確化, (3) “語り” の社会的性格についての言及の3点である。<BR>第1章「家族の中の人権」では, 重層的な関係準則の存在する家族で, とりわけ介護される高齢者の人権, 子世代介護者の人権, 高齢女性の人権について論じている。第2章「介護-愛の労働」では, 性別役割分担のみならず, 婚姻観・身体観・夫優位の夫婦関係といった現代の家族制度そのものという, 家族内で女性が介護役割を担ってきた要因について論じている。第3章「男性ケアワーカーの可能性」では, 社会的介護場面の分析を行っており, 「女の仕事」と規定されパート・ヘルパーが政策的に大量増員されている現状では, 男女共担への未来は必ずしも明るくはないと警鐘を鳴らす。第4章「障害児問題からみた家族福祉」では, 重症心身障害児家族のセルフヘルプグループの当事者同士で語られた本音の記録をていねいに読み解きながら, 家族福祉の重要性について論じている。第5章「老人を介護する家族」では, 介護責任の曖昧化のなか, 孤独な労働である介護を担う嫁・老妻の思いが綴られている。第6章「『家族』という関係の困難と希望」では, 介護をめぐる子ども世代と親世代の間の苦境に光をあて, その背景にある「家族介護規範」について論じ, 「個人」を支える視点に立った福祉制度の重要性を指摘している。第7章「フェミニスト・エスノグラフィーの方法」では, フェミニスト・エスノグラフィーに対する批判とそれに対する著者の考え, この方法における解釈・聞き取りの過程についての方法論をわかりやすく説明している。第8章「フェミニスト・フィールドワークの方法をめぐって」では, 5つの実際の会話をあげ, そこからみえる現実から, 従来の家族研究のあり方への疑問とフィールドワークでえられるデータの可能性について述べている。第9章「セルフヘルプグループと自己回復」では, セルフヘルプグループの現状, 特性について述べ, さらに受難体験をした参加者のアイデンティティ, 仲間に出会うことの意義, 逆にネガティブな側面とその克服についても言及している。<BR>本書ではエスノグラフィーの名のとおり, 一貫して「当事者の語り」を通して社会現象を読み解くという姿勢が貫かれているところが興味深い。従来の家族社会学の大勢であった実証研究ではなかなか研究者側に届いてこなかった個人の “語り” が確実に耳に届く。また, エスノグラフィーという方法に対してはさまざまな批判があるが, 著者はその批判を受け止め, それに対して確たる考えをもち, 謙虚に陳述・解釈し, 論を展開している。家族について研究を重ねられてきた著者の成果の大きなまとめであるといえよう。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205315510912
  • NII論文ID
    130001591189
  • DOI
    10.4234/jjoffamilysociology.13.10
  • ISSN
    18839290
    0916328X
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • Crossref
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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