漢訳『般若灯論』再考

  • 赤羽 律
    The Institute for the Cultural and Intellectual History of Asia of the Austrian Academy of Sciences

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  • Rethinking the Chinese Translation of the Prajnapradipa

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抄録

Bhaviveka (ca. 490/500-570)によって,Nagarjuna (ca. 150-250)の『根本中論』(Mulamadhyamakakarika)に対する注釈書として書かれたPrajnapradipaは,サンスクリット原典が散逸し,今日我々が目にすることができるのはチベット語訳と漢訳『般若灯論』のみである.しかし,月輪賢隆氏によって漢訳の不備が指摘されて以来,漢訳は殆ど研究対象として扱われてこなかった.本稿では,月輪氏の指摘を紹介するとともに,第8章の議論の一部を採りあげ,漢訳とチベット語訳の対比を元に,月輪氏の指摘を確認しつつも,漢訳が必ずしも不備ばかりでないことを示す.また,『根本中論』の偈を推論式に構成して注釈する際に,チベット語訳に於いて見出される推論式構成要素の説明部分が一貫して漢訳『般若灯論』に欠落している特徴を指摘し,漢訳とチベット語訳それぞれの元になったサンスクリット原本にそもそも差があった可能性を提示する.加えて,反論と答論が示され,その反論の一部が漢訳に見出されない場合,その見出されない反論部分に対する答論部分もまた綺麗に欠落していることがしばしば見出されることから,仮に両訳の元となったサンスクリット原本が同一であり,漢訳者が議論を一部省略したと想定するとしても,翻訳者Prabhakaramitraが議論を踏まえた上で省略した可能性が高いことを明らかにした.

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