「ダルマラージカー建立物語」について

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  • On the Legend of the Dharmarajikapratistha

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抄録

Ksemendra(11世紀)の仏教説話集Bodhisattvavadanakalpalata (Av-klp)第59, 69-74章はアショーカ王伝説にあてられている.うち第59, 70-74章については根本説一切有部が伝承する説話集Divyavadana及びチベット,漢訳大蔵経いずれかに全般的な並行話がある.しかし第69章Dharmarajikapratisthaについては部分的な並行話があるのみである.本論は同章がいかなる説話材源をもとに著されたかを明らかにするものである.Av-klp第69章は31詩節からなり,内容上「八万四千塔建立」,「無学な老比丘の説法」,「天界で雨安居を行った新参比丘」という三つの物語に分けられる.うち「八万四千塔建立」についてはDivyavadana,『阿育王伝』(T no. 2042, vol. 50>,『阿育王経』(T no. 2043, vol. 50),『雑阿含経』(T no. 99, vol. 2)に並行話がある.Av-klp所収話が伝える内容はこれら梵蔵四伝本が伝えるそれと概ね一致する.しかしAv-klp所収話には『雑阿含経』所収話に類似を示す箇所,Divyavadana,『阿育王経』所収話に類似を示す箇所,独自の伝承を伝える箇所もあり,材源を現行梵蔵四伝本いずれの祖形にも求めることはできない.残る二話「無学な老比丘の説法」,「天界で雨安居を行った新参比丘」については,チベット僧Taranathaが西暦1608年に著した史書に並行話がある.Taranathaはアショーカ王伝説の叙述にあたり材源とした資料を自著の第6章末に挙げている.そこにはAv-klp及び*Cairydvadanaという作品名が見られる.従って(1)TaranathaがAv-klp第69章をもとに問題の二話を著した,(2)Av-klp第69章,Taranathaの史書に伝わる問題の二話は散逸した*Cairyavadanaに基づくという二つの可能性が考えられる.しかしTaranathaの史書所収の物語には,前者に基づいて説明できない内容の食い違いが三箇所存在する.この事実に照らし後者の可能性が高いと考えられる.Ksemendraが材源とした*Cairyavadanaに「八万四千塔」がすでに挿入されていたのか,Ksemendraが*Caitydvadanaを改稿する段階でこれを付け加えたのかについては結論を下すことができない.

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