nis-kray^i

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タイトル別名
  • nis-kray^i:
  • nis-kray[i] : On the Concept of Buying-off of the Self in Vedic Rituals
  • ――ヴェーダ祭式における自己の買い戻しの概念について――
  • On the Concept of Buying-off of the Self in Vedic Rituals

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抄録

ソーマ祭において潔斎(Diksa)を行った祭主は,象徴的に「胎児」となり,また「供物」となって神々に自身を捧げねばならない.捧げられた自身はその後の動物犠牲祭における犠牲獣を以て「買い戻」される(動詞nis-kray^i)という思想,即ち'atmaniskrayana'がブラーフマナ文献(br.)に見られることは従来言及されてきたが,br.全ての用例が総合・分析されたわけではない.本稿は,br.の全用例を基にして「買い戻し」の概念を考察したものである.その結果,この概念は'atmaniskrayana'のみならず様々な場面で適用され,一定の役割を果たしていたことが明らかになった.ソーマ祭の基本形となるAgnistomaでは,3つのタイプが観察された.(1)潔斎において捧げた自己の買い戻し(犠牲獣による),(2)Bahispavamanastotraにおける,象徴的天界上昇において振り落とした骨格の買い戻し((1)とは別の犠牲獣による),(3)祭官への報酬寄与における,一時的に祭官に預けた自己の身体部位や生体諸機能の買い戻し(実際の報酬品による)である.(1)(2)において,祭主は象徴的に天界に行く.人が天界に行くためには必ず何らかの犠牲つまり喪失があり,「買い戻し」はそれを取り戻す行為として必須のものであったと考えられる.これは祭主が最終的に天界へ行き(実際に死ぬ),天界で完全な状態になるために,現世でも完全な状態でなくてはならないということであろう.一々において律義に互譲がなされている点も注目すべきである.(3)の意義については更なる検討を要する.またKamyesti(Kamyapasuを含む)においても各々に応じた「買い戻し」があるが,そこにAgnistomaにおける「自己の買い戻し」と同様のタイプは,祭式の性格上見出し難い.しかしSatapatha-Brahmanaの新満月祭の補遺的解説にAgnistomaのそれと並行する部分があり,注目に値する.

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