ワイル・ディラック半金属や量子スピン液体探索の新しい指導原理

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タイトル別名
  • New Guiding Principle in Searching for Dirac / Weyl Semimetals and Quantum Spin Liquids
  • ワイル ・ ディラック ハンキンゾク ヤ リョウシ スピン エキタイ タンサク ノ アタラシイ シドウ ゲンリ

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抄録

<p>金属や絶縁体,磁性体などの物性物理学において古くから研究されてきた相の他に,近年では「ワイル・ディラック半金属」や「量子スピン液体」といった比較的新しい電子状態の研究が興味を集め,物性物理学の主要な研究テーマの一つとして世界中の研究者を巻き込んだ研究が進められている.</p><p>ワイル半金属とは,3次元空間において伝導バンドと価電子バンドの計2バンドがブリルアン域内の一点で接触し,その近傍で線形分散を示すバンド構造を持つ物質のことである.ワイル半金属のバルクの電気磁気応答はカイラル量子異常と関連しており,これがどのような実験的シグナルとして現れるのかが注目を集めている.さらにワイル半金属の2次元表面には,通常の2次元電子系ではあり得ない「閉じていないフェルミ面」が現れるという興味深い性質を持つ.ワイル半金属に限らずより一般に,3次元空間において「面」ではなく「曲線」や「点」で伝導バンドと価電バンドが接する半金属は,通常のフェルミ面の場合とは異なる物性を示すことが期待され,これを実現する物質の探求が盛んに行われている.</p><p>一方,相互作用が強くバンド描像が成立しない領域で注目されているのが量子スピン液体である.強い電子間相互作用によって電子が局在しモット絶縁体となると,残されたスピンの自由度が問題となる.十分低温では反強磁性秩序などの磁気秩序が生じてしまうことが多いが,カゴメ格子などの幾何学的フラストレーションを持つ格子では磁気秩序が抑制され,スピンの自由度があたかも「液体」のように固まらずに残ることがある.絶対零度においても磁気長距離秩序を持たないスピン系は量子スピン液体と総称されるが,一口に量子スピン液体と言っても多種多様な可能性が残されている.例えば電子のスピンと電荷の自由度が分離したり,ボソンでもフェルミオンでもないエニオン統計に従う準粒子励起が現れる「トポロジカル秩序相」の一種となる可能性が指摘されており,量子コンピューターや次世代デバイスへの将来的な応用が期待されている.</p><p>理論的な興味だけでなく応用の可能性も秘めるこれらの非自明な電子状態が「一体どのような場合に実現するか」を明らかにすることは,物質探索の指針となる指導原理を与えたり,そこで起こる物理現象を深く理解したりするために重要である.</p><p>これまで半世紀をかけて発展させられてきたLieb-Schultz-Mattis定理は,量子多体系が実現し得る可能な状態を「単位胞当たりの電子数」に基づいて制限する非常に一般的な定理である.例えば,単位胞当たりに奇数個のスピンを含むカゴメ格子上のスピン模型が「磁気秩序などの長距離秩序を示さず,かつギャップが開いている場合には,トポロジカル秩序を持つ非自明な量子スピン液体にならなければならないこと」をこの定理は保証している.しかしこの定理はスピンのどの成分も保存しない強いスピン軌道相互作用がある系には適用できなかった.本稿では,任意のスピン軌道相互作用がある場合や,ノンシンモルフィックな空間群の対称性を有する場合にLieb-Schultz-Mattis定理を拡張し,より広いクラスの系に対してより厳しい制限を課せるようにする.そしてその結果が量子スピン液体やワイル・ディラック半金属の探索にどのように役立つのかについて紹介する.</p>

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