有質量グラビトン模型と宇宙論

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タイトル別名
  • Massive Gravity and Cosmology
  • ユウシツリョウ グラビトン モケイ ト ウチュウロン

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抄録

<p>現在の宇宙の加速膨張は,一般相対性理論に基づいて説明しようとすると,ダークエネルギーの存在を示唆する.ダークエネルギーは,もしも本当に存在するのであれば,負の圧力を伴うことで万有斥力を生じ,宇宙が膨張すると体積に比例して増加する(つまりエネルギー密度が一定)という,驚くべき性質を持つはずである.しかし,その正体は全く分かっていないのが現状である.</p><p>歴史的には,19世紀に似た状況が知られている.惑星の軌道の観測により,水星の近日点移動が発見されたが,ニュートン力学では説明できなかった.そこで,人々は見えない惑星を導入して説明しようとした.この仮説上の惑星はヴァルカンと呼ばれ,発見したと主張した人もいた.これは,いわばダーク・プラネットである.しかし,本当の答えはダーク・プラネットではなく,“重力理論を変える”ということだった.一般相対性理論は水星の近日点移動を見事に説明し,ニュートン力学に変わる,新しい重力理論としての地位を獲得したのだった.</p><p>この歴史的事実を鑑みれば,少なからぬ研究者が「ダークエネルギーを導入する代わりに,一般相対論を変更することはできないか?」と考えるのも理解できるだろう.ダークエネルギーは,一般相対性理論で加速膨張を説明しようとすると必要だが,もしも重力が長距離で変更を受けるのなら,もしかすると必要ないのかもしれない.</p><p>重力は重力子によって媒介されると考えられているが,一般相対性理論において重力子に質量はなく,その結果,重力は長距離にまで作用する.一方,もしも重力子に質量を与えることができれば,重力の長距離での振る舞いが修正されるだろう.重力子が質量を持つ可能性,すなわちmassive gravityについての研究は,1939年にFierzとPauliが線形理論を提唱して以来,長い歴史を持つ.しかし,1972年にBoulwareとDeserが非線形レベルでの不安定性を指摘してからは,長い間,重力子は質量を持てないだろうと考えられてきた.約40年後の2010年になってやっと,この不安定性の問題を解決する理論が,de RhamとGabadadzeとTolleyによって提唱された.この理論は,3人のイニシャルをとってdRGT理論と呼ばれる.</p><p>理論的整合性を持つmassive gravity理論の候補が見つかったので,多くの研究者が,それを宇宙論に応用して,加速膨張などの宇宙の謎に挑戦したいと考え始めた.そして,ダークエネルギーがなくても加速膨張する解が発見された.しかし,間もなくして,この解を含め,dRGT理論における一様等方な宇宙論解は,全て不安定であることが示された.この新たな不安定性を回避して,massive gravityにおける宇宙論を始めるためには,二つのアプローチがある.一つは,同じ理論において新しいタイプの宇宙論解を見つけることである.たとえば,等方性を通常の物質からは見えないところで破ることで,新しい宇宙論解が発見されている.もう一つのアプローチは,新たな理論を構築することである.これまでに,extended/new quasidilaton,bimetric gravity,minimal theory of massive gravity等において,安定な一様等方宇宙論解を見つけることに成功している.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 71 (7), 452-462, 2016

    一般社団法人 日本物理学会

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