乳児期初期における舌出し模倣に関する刺激要因の検討

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タイトル別名
  • EXPERIMENTAL ANALYSIS OF STIMULUS FACTORS IN TONGUEPROTRUDING IMITATION IN EARLY INFANCY
  • ニュウジキ ショキ ニ オケル シタダシ モホウ ニ カンスル シゲキ ヨウイ

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抄録

本研究の目的は, 乳児期初期の顔の模倣が顔の刺激要素の何によってひきおこされるのかを発達的に検討することである。そのため舌出し模倣をとりあげ, 様々な顔の描画刺激を使用した。 (FIG.1)<BR>実験1では, 実験者, 実験者の鏡像, 正顔, 唇のみ描画された刺激における舌の出し入れと, 白紙からの長方形の出し入れが1, 3, 7, 9か月児 (各N=20, 20, 10, 5名) に呈示された。その結果, 1か月児では顔の全形 (実験者の顔, 正顔, 鏡像) を有する刺激, 2か月後期 (3か月直前) ではこの傾向がピークに達し, 顔らしさに加えてあらゆる刺激の動きに対して反応が生じやすかった。3か月児にとっては顔らしさを備えているほど出現は多いが, 部分でも顔の形態 (要素) をもっていれば反応は生じる。しかし7か月以後は, 実験者 (実際の人) の舌出しのみが効果的であった (FIG.2) 。以上より, 顔の模倣が単なる刺激の動きに対する反応ではなく, 人の顔らしさの中での動きに対応して出現することが示唆された。<BR>実験IIでは, さらに顔らしさを規定する特徴に関して, 詳しく月齢を追って検討した。即ち模倣が顔の「人らしさ」の要因に対して出現するのか, それとも複雑性やりんかくへの要因に基づいて生起するのかを明らかにした。1~12か月児60名に対して, 正顔・目顔 (人らしい刺激) と, 乱顔 (複雑性), 輪郭顔において舌が出し入れされた。その結果顔の模倣は1か月児には人らしい刺激 (正顔・口顔), 2か月児はこれに加えて乱顔に対しても出現した。ところが, 3, 4か月では再び人らしさに対する生起率は高いが, 乱・輪郭顔に対しては低下した。そして5月以降描画刺激に対する模倣は激減する (FIG.3) 。実験1, IIを通して, 1か月の原初模倣は2か月でピークとなり, 2か月から3か月にかけて原初模倣がくずれ, 3か月で初期模倣が現われることが示唆された。<BR>諸反応の分析からも, 模倣には同時に微笑反応が伴っていることから, 模倣はpositiveな情動と密接に結びついていること, 5か月以後はリーチングの頻出により, 刺激が手操作による感覚運動的探索の対象としての性質を強め, それが模倣や情動行動を抑制することが考えられるのではなかろうか。<BR>以上から, 1か月でも顔の模倣が出現し, 2か月で高められていくなかで, 3・4か月にもなると知覚学習に基づいて「人らしさ」が選択され, 人一般に対する社会的・情動的コミュニケーションに密接に結びついた現象としての模倣が出現すると考えられよう。

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