無症候性脳梗塞に対する抗血小板剤投与の危険性
Abstract
〈緒言〉無症候性脳梗塞は脳卒中発症の危険因子の一つといわれるが抗血小板剤の有用性については明らかでなく、むしろ出血性脳卒中の危険性もあることから安易な投薬は避けるべきと考えられる。他院で無症候性脳梗塞に対し抗血小板剤を処方された後微小脳出血を起こして当院へ搬送された2症例を提示し、微小出血の意味あい、抗血小板剤投与の危険性について文献的考察を加え報告する。 〈症例〉症例1:72歳男性。老人ホーム入所中であった。多発性ラクナ梗塞という診断で無症状ではあったが他院よりシロスタゾール、アスピリン、イコサペント酸エチルが処方されていた。H19.4/12夕食時、数口食べたところで約5分間意識消失した(窒息はなかった)。発症時の血圧は60mmHg台であったとのこと。来院時JCS3 発語なし。簡単な口頭指示には応じる。四肢筋力に明らかな左右差無し。BP100/60 入院時頭部CTでは1)多数の点状低吸収域、2)脳幹の微小高吸収域あり。MRI拡散強調画像では高信号は見られなかった。またT2*強調画像ではCTの1)および2)に一致して低信号となっていた。MRAでは主幹動脈に異常なし。心房細動なし。画像検査からは新旧多数の出血跡と考えられた。また発症時の血圧が低かったことから高血圧性脳出血とは考えにくく、他院で多発性ラクナ梗塞と診断されたうちのいくつか、ないし全ては微小出血の痕跡と考えられた。幸い新たな神経学的脱落症状はなく翌日に退院した。 症例2:80歳男性。とくに症状はなかったが5年前に開業医から脳梗塞といわれバファリンを処方されていた。H19.1.12夜9時ごろ台所で倒れているところを発見され救急車で搬送された。来院時JCS3, 麻痺なし。その後、意識障害は徐々に回復。救急当直医は頭部CTで異常なしとして帰宅させた。その後、前立腺肥大にて当院泌尿器科に入院。活動性低下のため施行された頭部CTを神経内科医が読影。右被殻に微小出血があることを発見し当科へ紹介された。頭部MRAではなんら主幹動脈に異常なく、即刻バファリンを中止した。 〈結語〉主幹動脈に異常がない無症候性ラクナ梗塞に対して抗血小板剤が濫用されている例が最近目立つ。しかもこれら2症例はラクナ梗塞のように見えるがMRI(T2*)では微小出血の痕跡であった。抗血小板剤の使用により大出血となる可能性があった(Stroke 33:1536, 2002)。偶然脳梗塞と思しき病変がみられたとしてもそれが本当に脳梗塞なのか(微小出血の痕跡ではないか)、症候性であったのか、主幹動脈に異常があるか、心房細動はあるか、などを考慮して個々の病態に応じた対応をしなければならない。
Journal
-
- Nihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu
-
Nihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu 56 (0), 208-208, 2007
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
- Tweet
Details 詳細情報について
-
- CRID
- 1390001205517498624
-
- NII Article ID
- 130006944153
-
- ISSN
- 18801730
- 18801749
-
- Text Lang
- ja
-
- Data Source
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- Abstract License Flag
- Disallowed