過去5年間のパラコート中毒の分析

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説明

【はじめに】  近年パラコート中毒は減少しているが、農村においてはまだゼロにはならず命を落とすケースがあり救命法はなお検討の余地がある。今回、過去5年間の全国の報告を分析し、パラコート中毒の救命への示唆を得たので報告する。 【研究目的】   パラコート中毒において救命できた実態を調査する。 【研究方法】   2002年~2006年の医学中央雑誌、Jmed Plus、JAPIC DOCの文献より、パラコート中毒症例を集め調査・分析するとともに、同時期の当院における報告例も含めて検討した。 【結果】 過去5年間でパラコート中毒の症例は25例、その内16例(64%)に関しては年齢・性別・パラコートの服用量は不明であったので対象から除いた。 (1)病歴の明らかな9例について _丸1_平均年令は60歳、性別は男性4名・女性が5名 _丸2_パラコートの服用量は15~200ml _丸3_服用の要因は、自殺企図3名、精神疾患3名、誤飲1名、不明2名 _丸4_内訳は、救命できた症例は6名、死亡2名、転院1名であった。 (2)救命できた6症例について _丸1_パラコート服用量は平均100ml _丸2_服用から治療開始までの平均時間は約3時間であった。生存例の共通点は、治療の迅速さと徹底さであった 迅速な初期治療として、消化管からのパラコートの吸収を防ぐために、胃洗浄・腸洗浄・大量輸液が行われていた。その他、血液吸着・血液透析・呼吸管理(人工呼吸)にてICUに収容し治療となっている。 (3)当院の症例については、過去5年間で3症例あったが、生存例はなかった。平均年齢62才、性別は男性1名、女性2名 _丸2_パラコートの服用量は50~500ml _丸3_服用から治療開始までの平均時間は約4時間30分 _丸4_治療は、胃洗浄・腸洗浄・強制利尿・血液吸着・活性炭注入・大量輸液 _丸5_服用の要因は、家庭内トラブルによる自殺企図であった。 【考察】    パラコート中毒の死亡率は70~80%と言われている。生命予後は服用後来院までの時間と服用量による血中パラコート濃度が重要な要因となっている。   救命できた症例の共通点は、「いかに早く腸管内に残存するパラコートを体外に排出すか」という治療の迅速さと、「血中・組織中に吸収されたパラコートをいかに体外に出すか」という治療の徹底さの二点が最も重要なポイントと考えられた。また今回の全国データで生存例が多かった原因の一つとしてパラコート製剤の低濃度化への移行が挙げられる。以前は高濃度製剤であったが現在は低濃度製剤となっているため救命につながったと推測された。 パラコートの服用原因は自殺企図と精神疾患が多く、当院でも同様の原因であったことから、患者はパラコートを強い毒性があり死亡できる薬剤と考えている。当院は近隣が農村地域であり、パラコートが手軽に入手できるため今後も継続して自殺企図等に使用される可能性が高い。また、現在使われている低濃度製剤のみならず、過去の高濃度製剤も保管されていることも想定される。そのためパラコート使用のリスクを常に念頭に置き、救急で搬送されたときには初期対応において治療の迅速さと徹底をスタッフ間で周知徹底させる必要がある。   【まとめ】 1.過去5年間のパラコート中毒の実態を調査し検討した。 2.中毒例の報告には内容が不備なものが多く、パラコート服用量、処置法等は必ず記載する必要がある。 3.パラコート中毒患者に対する救命処置は迅速かつ徹底した治療が必須であるため、その服用における濃度、量、治療開始までの時間が重要である。 4.パラコート中毒による致死率は依然として高い。メーカー側においても薬剤の低濃度化だけではなくパラコート製剤の販売中止を検討していく必要があろう。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205517652224
  • NII論文ID
    130006944260
  • DOI
    10.14879/nnigss.56.0.259.0
  • ISSN
    18801730
    18801749
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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