高度肥満患者の有機リン中毒の1例
Description
<緒言>高度肥満患者の自殺企図による殺虫剤シアノホス(有機リン系殺虫剤)の大量服薬を経験したので報告する。<BR><症例>53歳男性。162cm、体重111kg、BMI 42.3。既往歴:高脂血症、痛風、高血圧症、糖尿病を指摘されるも放置。薬物中毒、自殺企図の既往なし、精神科受診歴なし。家族歴:母はうつ病で精神科通院中。職業:トラック運転手。現病歴:200万円ほどの借金があり自殺しようとして2005年1月7日朝に有機リン系殺虫剤であるサイアノックスを服用した。昼間から様子がおかしく「助けてくれ」と言っていた。21時頃に意識障害があるため家族が救急要請し当院救急外来を受診。推定服薬量はシアノホス100ml程度。縮瞳、徐脈、嘔吐、大量の気道分泌を認め、有機リン中毒と診断し、輸液負荷と利尿剤、活性炭50g胃内投与、PAM1gを静注、硫酸アトロピン1mg/hrにて治療を開始した。循環虚脱、呼吸抑制を認めたため、昇圧剤を開始しICUにて挿管のもと人工呼吸器管理となった。誤嚥性肺炎の合併もあり気道分泌も多かったため適宜気管支鏡を用い吸痰を施行した。中心静脈栄養開始後にHbA1c8.9%と高度耐糖能異常を認め、インスリン1日130単位程度必要とした。第13病日、呼吸器weaning中に自己抜管。起座位の保持、マスクCPAPを使用しながら何とか酸素化を維持した。第14病日よりリハビリを開始。精神科も受診し、週3回程度のカウンセリングとセレネースを中心とした内服薬の調節を行った。<BR> 第19病日にICUを退室。自殺企図であったため、一般病床では家族の付き添いを依頼したが、不可能とのことであり早期退院を目指した。硫酸アトロピンを漸減したが、硫酸アトロピンを中止すると大量の下痢が出現。ロートエキスの内服を開始したところ下痢が治まり第29病日に硫酸アトロピンを中止し第32病日に退院となった。<BR> 退院後1週間でロートエキスを中止することができ、社会復帰した。糖尿病に対しては退院時にはアカルボース100mg3錠、メトホルミン250mg2錠の内服としたが、その後は食事療法のみでHbA1c6.1までに改善した。<BR><結語>有機リン系殺虫剤は脂溶性であり、脂肪への薬剤の貯留が多い。服用量にもよるが、今回のような肥満症例では特にコリン作用が遷延すると考えられる。ムスカリン様作用である気管支分泌物、縮瞳といった症状とニコチン様作用の筋力低下を認め、これらの症状により長期間にわたり持続の硫酸アトロピン投与を必要とした。高度肥満のため、呼吸訓練や姿勢保持のリハビリテーションも長期間にわたり必要であった。また、キシレンによると考えられる誤嚥性肺炎も合併した。糖尿病と高度肥満により急性期治療に難渋した有機リン中毒を経験した。初期治療の文献的考察も交えて報告する。
Journal
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- Nihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu
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Nihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu 55 (0), 86-86, 2006
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205518323328
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- NII Article ID
- 130006944809
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- ISSN
- 18801730
- 18801749
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
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