当院における「脳卒中センター」設立について

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抄録

<要旨> 従来本邦では,脳卒中は内科・神経内科・脳外科などがバラバラに対応し,統一された診療体系が構築されてこなかった。しかし高齢化社会の進行につれ,脳血管障害とりわけ脳梗塞の予防・診断・治療の対策は、国家的課題となった。当院の脳卒中入院患者は,年間に脳梗塞240名,一過性脳虚血発作 (TIA)10名,脳出血80名,くも膜下出血30名と,約360名を数える。<BR> まず、昨今の脳梗塞の画像診断の進歩はめざましく,magnetic resonance imaging (MRI)/ magnetic resonance angiography (MRA)の普及で,脳梗塞の急性期診断と病態の把握は,臨床の場で格段に進歩した。また本来脳梗塞は、(1)アテローム血栓性梗塞,(2)ラクナ梗塞,(3)心原性脳塞栓,と大きく3つに分けられてきたが,不整脈(心房細動)を伴う高齢者の増加により(3)が急増している。この心原性脳塞栓は重症化しやすく,死亡例や寝たきりになる率も高い反面,昨年2005年10月11日に認可されたT-PA(tissue plasminogen activator)が著効する例も多い。このT-PA投与が急性期脳梗塞に対して認可され,全国の病院で脳卒中の診療体制が変わりつつある。<BR> しかし,この治療薬は適応を間違えば,出血を引き起こす可能性がつよく,脳卒中の専門医による投与の判断を前提としている。また、発症3時間以内の投与や,投与後の脳卒中ユニットSCU (Stroke Care Unit)での管理が必要なため,基本的には“脳卒中の専門医が常駐し,夜間でもCT/MRI/MRAの撮影可能な救急基幹病院”での使用がのぞましい。T-PAの使用について経験の豊富な米国でも,やはり投与の適応について困ることが多いらしく,救急搬送された脳梗塞患者にTPAを投与すべきか否か,農村部の病院から都市部の脳卒中センターに電話で支援を求めるシステムもある(文献1)。<BR> SCUについては,以前からその重要性・有用性が指摘されてきたが,脳卒中患者を専門的に扱うSCUで治療やリハビリテーションを受けた患者は,通常の病棟で過ごした患者に比べ、10年後の生存率について良好であるとの報告がされた(文献2)。つまり脳卒中患者のケアは,急性期からリハビリまで,専門のユニットで行う方が良い成績を上げられる。<BR> 以上から当院では,本年2006年1月19日,神経内科・脳神経外科・リハビリテーション科が一体となり,新たに「脳卒中センター」を開設し,急性期からSCUでの脳卒中専門チーム(医師・看護師・リハビリテーションセラピスト)による治療やリハビリの施行,その後ケースワーカーの介在したリハビリ専門病院(回復期リハビリ病院)との連携の確立,さらに退院後の訪問看護まで含んだ体系を確立した。<BR>References<BR>1) Frey JL, Jahnke HK, Goslar PW, Partovi S, Flaster MS. tPA by telephone: Extending the benefits of a comprehensive stroke center. Neurology 2005;64:154-156<BR>2) Drummond, et al. Ten year follow-up of a randomized controlled trial of care in a stroke rehabilitation unit. BMJ電子版2005年8月10日

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  • CRID
    1390001205518745856
  • NII論文ID
    130006945269
  • DOI
    10.14879/nnigss.55.0.208.0
  • ISSN
    18801730
    18801749
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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