農薬中毒部会の現状と今後

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抄録

<はじめに> 農薬中毒は、農村医学の主たる課題になって久しい。日本農村医学会は、若月俊一佐久総合病院長のもと、1966年に農薬中毒研究班を発足させ、精力的に取り組んできた。この活動は、2003年まで継続されたが、2004年、日本農村医学会・特別研究プロジェクトの農薬中毒部会に改組され、椎貝達夫取手協同病院長を初代統括責任者として再スタートし、2008年に夏川周介佐久総合病院長に引き継がれ、今日に至っている1)。ここでは、部会活動を紹介し、今後のあり方を探ってみたい。<BR> <農薬中毒臨床例調査> <BR> 日本農村医学会には120余の関連施設があり、これらの診療規模は日本全体の2~2.5%程度と推計される。このネットワークを用いた農薬中毒臨床例の収集は、数々の成果をあげてきた。1985年10月25日パラコート剤に関する学会決議2)が、この製剤の日本における低濃度化をもたらしたこと、1996年の殺菌剤フルアジナム散布中の曝露による皮膚障害の集団発生の迅速な捕捉3)などが挙げられる。また、西垣ら4)は、1998-2003年の6年間の傾向を解析した。2005年再開された本調査は年間70-80例の症例を収集している。<BR> <職業曝露の人体影響><BR> しかし、散布作業中または環境曝露による中毒は、1)中毒を発症しても病院まで来ない、2)診察医が農薬中毒と診断できないなど、上記調査に報告されていない事例の方が多いと推察され、職業曝露による障害については、労働衛生の向上を目的とした現地調査が必要であると考え、2009年より、花卉栽培作業者の農薬曝露実態調査を開始した。<BR> また、職業曝露の場合、皮膚障害も重要である。例えば永美ら5)は、石灰硫黄合剤による化学熱傷が深達性のアルカリ腐食であり、その治療にはデブリドマンと植皮術を必要とする場合があることを指摘し、障害防止のためのパンフレットを策定した。<BR> <環境曝露による健康被害><BR> 本部会は、環境曝露による健康被害についても情報を収集・検討した。例えば、中学校の生徒が集団有機リン中毒を呈した事例6)、松枯れ対策の農薬空中散布と同時期に発生した健康被害7)が挙げられる。前者は、学校関係者がアリの巣穴に、有機リン殺虫剤の原液を撒き、付近の教室の生徒が集団中毒を起こしたものであり、後者は、松枯れ対策のための殺虫剤の空中散布により、小児が多動傾向、描画能力の低下を来たしたものである。<BR> このような事例を調査・報告し、蓄積することは、農薬中毒防止に貢献してゆくものと期待される。<BR> <アジア地域への貢献><BR> 第17回国際農村医学会議は、国際労働衛生委員会との共催で2009年10月に開かれ、発展途上国における労働、とくに女性・子供の労働の実態が報告され、その改善を求めたカルタヘナ宣言が採択された。農薬も主たる危険因子として明記された。<BR> 日本農村医学会・農薬中毒部会は、上記のような活動を継続しながら、アジア地域への貢献を視野に入れるべきであろう。<BR> <文献><BR> 1)日本農村医医学会[農薬中毒部会]夏川周介 (2010)、2) 日本農村医学会. 日農医誌1985;34(4):868、3) 松下敏夫. ibid 2000;49(2):111-27、4) 西垣良夫 他. ibid 2005;54(2):107-117、5) 永美大志 他. ibid 2010;59(1):43-48、6) id. ibid 2009;58(3):208、7) id. ibid 2009;58(3):209

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205518895872
  • NII論文ID
    130006945438
  • DOI
    10.14879/nnigss.59.0.13.0
  • ISSN
    18801730
    18801749
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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