過酢酸製剤の歯科用金属製器材に対する腐食性とその低減化に関する研究

  • 尾立 達治
    北海道医療大学歯学部口腔機能修復・再建学系高度先進保存学分野
  • 遠藤 一彦
    北海道医療大学歯学部口腔機能修復・再建学系生体材料工学分野
  • 井田 有亮
    北海道医療大学歯学部口腔機能修復・再建学系生体材料工学分野
  • 斎藤 隆史
    北海道医療大学歯学部口腔機能修復・再建学系う蝕制御治療学分野
  • 川上 智史
    北海道医療大学歯学部口腔機能修復・再建学系高度先進保存学分野

書誌事項

タイトル別名
  • Corrosion of Dental Metallic Instruments in Peracetic Acid Solution and Its Prevention

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抄録

歯科臨床では,歯科用器材に対する消毒剤を用いた消毒や化学的滅菌が広く行われている.近年,粘膜や皮膚への刺激が強く,アレルギー性や変異原性を有するグルタールアルデヒド製剤に代わる消毒剤として,過酢酸製剤が注目されている.この消毒剤は,芽胞を始め広範囲の微生物に有効であり,短時間で高水準消毒や化学的滅菌が可能なばかりでなく,現在までアレルギーや感作に関する報告がなく安全性にも優れている.歯科用器材は繰り返し消毒・滅菌されるため,消毒剤には器材の材質を変質させないことが要求される.しかし,現在まで過酢酸製剤のさまざまな歯科用金属製器材に対する腐食性を系統的に調べた研究はない.そこで本研究では,歯科用金属製器材に使用されている代表的な6種類の合金(炭素鋼,2種類のステンレス鋼,真鍮,アルミニウム合金およびタングステンカーバイド)の過酢酸溶液中における腐食挙動を調べ,その腐食性を電気化学的測定,金属イオン溶出量の定量および合金表面の分析を行って評価するとともに,イオン交換水や他の消毒剤の腐食性と比較した.次に,過酢酸溶液に腐食抑制剤を添加することによって,腐食性の低減化を試みた.その結果,以下の結論を得た.1.過酢酸溶液は,鉄系の合金(炭素鋼,ステンレス鋼)に対する腐食性が低く,これらの材質の器材の消毒に用いても大きな問題は生じない.2.過酢酸溶液は,真鍮やアルミニウム合金に対する腐食性が,イオン交換水や緩衝化剤でpHを調整したグルタールアルデヒド溶液と比較してきわめて高く,これらの材質の器材の消毒には適用できない.3.Na2HPO4を過酢酸溶液に3%添加することによって,真鍮の表面にはCu(OH)2から成る皮膜が生成し,腐食速度は約1/100に減少した.4.Na2HPO4の防食効果は,アルミニウム合金やタングステンカーバイドに対しては十分ではない.5.Na_2HPO4を3%添加することによって,過酢酸溶液のpHは3.8から5.2に上昇し,殺菌力保持時間は7日から2日と短くなった.以上の結果から,過酢酸製剤は炭素鋼やステンレス鋼製の器材の消毒に適していることが明らかとなった.また,Na2HPO4を3%添加することによって,消毒剤溶液の保存期間は短くなるものの,真鍮製の器材の消毒にも有効に使用できることがわかった.

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