認知症施設入所者の高強度光照射における変化

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抄録

【目的】 本研究は認知症施設入所者に対する高強度光照射が睡眠障害等の認知症周辺症状を軽減するか調べることを目的とした.<BR> 【方法】 対象は老人保健施設に入所中の認知症高齢者4名(男性2名,女性2名)であった(年齢:76.0±11.5歳,入所期間:16.3±17.7ヶ月).対象者には夜間せん妄や徘徊が見られ,対象者の施設内歩行は自立していた.各対象者またはその家族には調査内容及び危険性を十分に説明し,調査参加の同意を得た.9:00~9:30に対象者は座位にて軽作業を行い,その間,対象者の正面に設置したLED照明機器を点灯させた.光強度は対象者の眼前で約2,000luxであった.LEDは7日連続で作業中に点灯し(光照射週),その前後1週間はLEDを点灯しなかった(それぞれ光照射前週,光照射後週).この3週間を1セッションとし,各週の最終日にはMMSE,CMAI, NPI-NH,Zarit短縮版を用いて認知機能,認知症周辺症状,介護負担度を評価した.各対象者は2008年10月と12月に1セッションずつ測定を実施した.LEDの色温度は12,000K(青空色)または2,400K(夕暮れ色)とし,それぞれのセッションでは異なる色温度を用いた.色温度と週による認知症周辺症状等の違いは三元配置分散分析を用いて評価した.多重比較にはBonferroni法を用いた.なお有意水準は5%未満とした.<BR> 【結果】 三元配置分散分析の結果,NPI-NH「睡眠」のスコアに週による有意な影響が認められた.また夕暮れ色については光照射前週あるいは光照射週と比較して光照射後週にスコアが有意に減少した.他の項目では有意な影響は認められなかった.<BR> 【考察】 網膜から伝達される光刺激は深部体温,メラトニン,覚醒-睡眠などの概日リズムの位相を調節する.そのため,終日屋内生活を余儀なくされ,太陽光等による光照射の機会が減少している認知症施設入所者では,日常生活時の概日リズムが光によりうまく調節されていないことがあると推測される.このような場合,例えば覚醒-睡眠リズムが昼-夜のリズムとずれることがあり,睡眠障害が生じやすい.本研究では,NPI-NH「睡眠」スコアが夕暮れ色の光照射前週または光照射週と比較して光照射後週に有意に減少したことから,夕暮れ色の光照射によって覚醒-睡眠リズムが昼-夜のリズムに一致するようになり、入眠の困難度あるいは夜間中途覚醒が減少したのかもしれない.一方、ほぼ白色の青空色では,「まぶしい」という心的状況が惹起され,顔が光源から背けられたために網膜での光強度が減少した可能性があり、そのためにスコアに影響が見られなかったのかもしれない.ただし本研究の対象者は4名であったことから,今後対象者を増やして光照射の影響を再検討する予定である.<BR>

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  • CRID
    1390001205526994432
  • NII論文ID
    130006950220
  • DOI
    10.14901/ptkanbloc.29.0.123.0
  • ISSN
    2187123X
    09169946
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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