慢性期頸髄損傷患者における咳嗽介助法の比較検討

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  • 住吉 司
    山梨厚生病院 リハビリテーション室

抄録

【目的】<BR>慢性期頸髄損傷患者の多くは呼吸筋の麻痺により自力咳嗽のみでは分泌物が気道内から除去出来ない場合があり、この際、当院では一つの方法として呼気介助即ち咳嗽介助を徒手圧迫にて施行している。また、この徒手咳嗽介助の介助部位は胸郭と上腹部の2種類あるがどちらを選択するか明確な基準もなくまたその相違も比較検討されてはいない。そこで、今回はこの相違をPeak Cough Flow値(PCF値)を測定しその結果から上記2種類の比較検討を行う。<BR> 【方法】<BR>対象は慢性期頸髄損傷患者10名:発症後経過月数の平均は151.8±96.8ヶ月。気管切開等の既往なく深呼吸位がとれかつ声門を閉じてから1回で息(咳)を吐ききれることを条件とした。PCF値の測定をミニ・ライトピークフローメーター(clement clarke international社製)にマウスピースを接続して行った。それぞれ仰臥位にて肺活量位から1.自力咳嗽2.徒手胸郭圧迫咳嗽3.徒手上腹部圧迫咳嗽を各々3回行い最大値を採用した。この3種類は順番ランダムとし測定間隔は十分にとった。以上の結果をバートレット検定後、二元配置分散分析にて統計処理を行った。(p値は5パーセントを有意とした。)<BR> 【結果】<BR>PCF値はそれぞれ平均値が1.自力咳嗽193±105.1 L/min 2.徒手胸郭圧迫咳嗽260±78.9 L/min 3.徒手上腹部圧迫咳嗽 318±91.3 L/minであり1.2.3.におけるPCF値の差は有意であった。(p<0.05)<BR> 【考察】<BR>咳嗽は1.誘発2.吸気3.圧縮4.(爆発的な)呼気の4相に分けられるが、咳嗽介助は3.圧縮~4.(爆発的な)呼気の2相を介助するものである。また、PCF値は160L/min以下では日常的な排痰がうまく行えず 270L/min以下では風邪や肺炎の時の粘り痰を喀出出来ないとされる。今回の測定結果では徒手上腹部圧迫咳嗽によるPCF値は自力咳嗽や徒手胸郭圧迫咳嗽によるPCF値と有意差を示し、上記の粘り痰を喀出出来ないとされる値よりも平均値で上回っていた。これはさらに、慢性期頸髄損傷患者にしばしば特化する胸郭のmobilityの低下、即ち、tightな胸郭を押すよりは、flexibleな上腹部の圧迫のほうがより腹腔内圧の上昇が得られ易くなりこれも影響を与える一因ではないかと考える。<BR> 【理学療法研究としての意義】<BR>今回の結果を踏まえ自力咳嗽、徒手胸郭圧迫咳嗽、徒手上腹部圧迫咳嗽には有意差があると認識する。と同時に圧迫部位の選択を十分に考慮する。特に、上腹部あるいは胸郭の周術期やストーマ、胃ろうがあるケース等への安全を配慮し、効果的な徒手咳嗽介助の施行につながれば良いと考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205528525312
  • NII論文ID
    130006950789
  • DOI
    10.14901/ptkanbloc.30.0.279.0
  • ISSN
    2187123X
    09169946
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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