脊髄梗塞により前脊髄動脈症候群の対麻痺を呈した一症例

DOI
  • 相羽 宏
    東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科
  • 中村 智恵子
    東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科
  • 中山  恭秀
    東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科

書誌事項

タイトル別名
  • 長期理学療法介入による歩行獲得について

説明

【はじめに】<BR> 脊髄梗塞の予後不良因子として大動脈疾患、4椎体以上の長軸方向に長い病変、横断性の病変、脱力による発症、女性などの報告がみられる。国内における1990年~2010年の前脊髄動脈症候群の対麻痺症例を対象に文献調査を行った結果、補助具を用いて歩行自立に至ったのが23例中7例であり、うち6例が痛みによる発症と2椎体の病変、1例が痺れによる発症と1椎体の病変であった。本症例においては両側性病変、6椎体の長軸方向への病変といった2つの予後不良因子を呈していたが、1年間の理学療法(以下PT)介入により、両側ロフストランド杖4点歩行を獲得するに至ったので、以下に経過をまとめ考察する。尚、本報告については本人に説明し同意を得ている。<BR> 【症例】<BR> 62歳男性。初発症状は両膝痛、歩き難さからで、その3日後に両下肢完全麻痺を呈し、脊椎MRI上Th7~12レベルの前脊髄動脈症候群と診断された。Th11以下の温痛覚障害と左優位の不全麻痺(ASIA・B)を呈していた。<BR> 【経過】<BR> 初期評価時、両下肢は完全弛緩性麻痺の状態を呈していたが、筋力は徐々に回復傾向がみられ、発症15日目には両側長下肢装具(以下、LLB)にて平行棒内立位が可能となった。発症1ヶ月目より徐々に下肢の痙縮が出現しmodified Ashworth scale(以下mAs)は1+であった。発症2ヶ月目には両側LLBにて歩行器歩行が可能となった。発症4ヶ月目のASIAはBからCへと改善、MMTは体幹屈曲5、体幹伸展(胸椎)4・(腰椎)2、骨盤挙上右5左4、股関節伸展右1左0、股関節外転右2左1、股関節屈曲右3左2、膝関節伸展右4左2、足背屈右3左2。股関節屈筋群はmAs3であった。左LLBと両側松葉杖にて4点歩行監視レヘ゛ルにて退院となったが、歩行時の姿勢は股関節屈曲、体幹前傾位で重心の前方過多が見られた。これらの原因が股関節屈筋群の痙縮と考え、抑制目的に股関節屈筋群の持続的ストレッチを継続した。発症1年目には左LLBと両側ロフストランド杖を用いて4点歩行が、約50m屋内自立にて可能となった。<BR>  【考察】<BR> 症例は、4ヶ月経過後から筋力の回復は緩徐となり、ASIAでの変化は伺えなかった。退院時の歩行では、屈筋優位の痙縮により、股関節伸展方向へのロッキンク゛が不十分であり、前方重心のため不安定であった。そこで股関節屈筋群の持続的ストレッチを継続した。結果、mAs2へと軽減し股関節ロッキンク゛が可能となり、重心の前後方向のコントロール改善、杖への依存度が減少し、立位保持能力が向上した事でロフストランド杖での歩行獲得に至ったと考える。また、長期介入により、体重心の感覚や運動感覚の学習が得られた事も、要因の一つと考える。Ditunno(1992)らは数%の症例は2年後にも筋力レヘ゛ルに若干の変化がみられたと報告している事から、機能面に対しても長期的にアプローチする事で回復が図れ、歩行能力の向上に繋がると考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205528708992
  • NII論文ID
    130006950899
  • DOI
    10.14901/ptkanbloc.30.0.324.0
  • ISSN
    2187123X
    09169946
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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